芭蕉db

御命講や油のような酒五升

(芭蕉庵小文庫)

(おめいこや あぶらのような さけごしょう)

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 元禄5年、49歳。一説に、元禄元年説もある。御命講は、日蓮の命日(陽暦弘安5年1282年11月21日・陰暦10月13日)であるから何れにしろ10月13日の御会式のこと。日蓮は、池上本門寺で没したので、御会式は特に盛大に挙行されたであろう。そして、芭蕉の住む深川は、池上本門寺に近く、御会式に参列する信者がこの日は万燈を押し立て盛大に団扇太鼓を叩きながら表を練り歩き、「南無妙法蓮華経」の妙号を唱える声がかまびすしく耳に入ったことであろう。不思議な縁だが、芭蕉は御命講の萬燈会の行われる10月12日に他界することになる。
 御命講については、他に菊鶏頭切り尽しけり御命講」もある。


身延山花の寺境内にある句碑


久遠寺の萬燈会


御命講や油のような酒五升

 日蓮消息文に、日蓮が信徒からの贈り物への礼状に、「新麦一斗、筍<たけのこ>三本、油のやうな酒五升、南無妙法蓮華経と回向<えこう>いたし候」とあるから採った。このことからして、芭蕉は日蓮文書を読んでいたことが分かる。
 一句も、芭蕉が門人の誰彼から酒を貰ったのに対しての謝礼吟または酒に対する褒美の吟であろう。実際油のようなコクのある酒であったかどうかは怪しいが、そこはあくまで日蓮の用いたコードを使いたかったのであろう。
 江戸童歌に、
   「お正月はよいもんぢや
    油のような酒飲んで
   木っ端のような餅食って
    雪のようなまま食って
   これでもとつさん正月か」
がある。
 一句にある「油のような酒」は、こちらに近いのかも知れない。