山梨県立女子短期大学に赴任して(『環境衛生工学研究』14(4),2000,pp.27-28.)平成6年に衛生工学専攻で修士課程を修了した後,武庫川女子大学大学院家政学研究科の博士後期課程に進学し,平松幸三教授のもとで地域音環境の社会調査に基づいて学位論文を作成しました。学位は家政学,最終学歴は女子大と,なかなかに特異な経歴となりましたが,自己紹介をしたときに憶えてもらいやすいなど,案外と得をすることもしばしばあります。その後は,山本剛夫先生を中心とする沖縄県の米軍基地周辺の航空機騒音影響調査に参加する得難い経験をさせていただいた他,財団の嘱託研究員や短大の非常勤講師を経て,去る4月に山梨県立女子短期大学生活科学科に赴任いたしました。 県内では「県短」の名で親しまれている山梨県立女子短期大学は,定員50人の学科が4学科,全学合わせても学生数が400人とたいへん小さな学校です。現在,少子化や女性の高学歴化を背景に,県に短大将来構想検討委員会が設置され,四年制・共学化も視野に入れながら今後の在り方が模索されているところです。 私が勤務する生活科学科は旧家政学系の学科で,9人の専任教員が「社会・生活分野」「食物健康分野」「生活デザイン分野」の3分野を教えています。私は「社会・生活分野」の専任講師として,「環境社会学」「環境とライフスタイル」などの科目を担当しています。 私の担当科目は「専門教育科目」と位置づけられてはいますが,当然ながら四年制大学のような専門的な内容を取り扱うことはできません。例えば,「環境社会学」は入学したばかりの1年前期に割り当てられているので,ほとんどの受講生は「環境」についても「社会」についても知識や問題意識をそれほど持ち合わせていません。そこで,ビデオ教材などによって出来る限り多くの事例を示し,少しでも私たちの生活と環境との関わりについて問題意識を持ってもらうことを目指して授業を進めています。 今,知識や問題意識が乏しい,と書いたところなので矛盾するようですが,今の学生は環境問題に対する関心が案外と高い,というのが毎回の講義の後に書かせている感想文を読んで感じるところです。考えてみれば,現在の短大生の世代は,物心着いた頃にはすでに地球環境問題がクローズアップされており,中学に上がる頃にはバブル経済が崩壊していることになります。そのような時代に学校教育を受けてきた彼女らは,環境問題を当然のものとして受けとめられる世代のようです。 短大に赴任して上述のような教育に携わる中で,教養教育として環境の問題を扱うことに積極的な意味を見出すようになりました。いわゆる環境教育の一環ということにもなります。自然科学的な立場からは,環境問題に関する科学的な知識を伝えることに関心が赴くところと思われますが,それと同時に重要なのが,やや粗っぽい言い方になりますが,行政や経済などの社会システムについて理解を深め,その上で自らのライフスタイルを形成する力を養うことだと考えています。近年の環境社会学のいくつかの研究は,環境問題を考える鍵のひとつは地域のコミュニティにあることを指摘しています。卒業してどのような進路を選んだとしても,地域に生活するという点では共通するわけですから,地域社会と生活に焦点を当てた環境教育が有意義であろうと考えています。 さて地域ということで言えば,県立の学校として県民の方々への還元を求められることもあり,講演会や授業の開放など,種々の生涯学習事業がさかんに行われています。私も生涯学習推進委員を仰せつかり,企画や運営に携わっています。参加される方の多くは年輩の方で,実に熱心に参加されています。そうした経験をする中で,地域総合学習の拠点としての機能を担っていくことも,県立短大の将来の一つの在り方と思うようになりました。そしてその中で,環境の問題は,取り扱うべき重要なテーマのひとつであることは間違いないと思われます。 少子化が進む中で将来の在り方が問われている小さな県立短大に赴任して感じていることを書かせていただきました。やや大きな事を述べすぎた感もありますが,少しでも理想に近づけるよう,諸先生方のご指導ご鞭撻を賜りながら教育・研究に努めていきたいと考えております。 (2000/10/26) |