消費者行動論 #3  2001/11/01


■市場とマーケティング

●マーケティングとは
企業が行う財やサービスの販売を拡大するための活動

《参考》

マーケティングとは,価値を創造し,提供し,他の人々と交換することを通じて,個人やグループが必要とし欲求するものを獲得する社会的・経営的過程である。
(コトラー『マーケティング・マネジメント』プレジデント社,1996)


マーケティング(マネジメント)は,個人や組織の目的を満足させる交換を創出するためのアイデア,財,サービスの概念形成,価格設定,プロモーション,流通を企画し,実行する過程である。
(アメリカ・マーケティング協会,1985)


マーケティング marketing
大量生産と大量消費のメカニズムを円滑に回転させるために,財とサーヴィスの全流通過程を生産者あるいは流通機構の手中に管理する,企業経営の組織的活動。その基本は,消費者に対して財とサーヴィスを購入したいという欲望を起こさせることである。(以下略)
(『社会学小辞典』有斐閣,1997(新版))

●市場の発展とマーケティング・コンセプトの変化
A.生産志向と製品志向の時代
・販売努力の不要な時代;いかに製品を供給するか

B.販売志向の時代
・大量生産された製品をいかに買わせるか

C.消費者志向と顧客志向のマーケティング
・消費者の望む製品を作る
・顧客満足を高める

D.リレーションシップ・マーケティング
・顧客との長期的な関係づくり
・双方向的なコミュニケーション

●市場細分化(マーケティング・セグメンテーション)戦略
消費者の欲求の多様化
→同じような欲求を持った消費者のグループをターゲットとして商品を開発し販売するのが効率的

●マーケティング・ミックス(4P)の構築
(1) 製品 product
(2) 価格 price
(3) 流通 place
(4) 販売促進 promotion

●ソーシャル・マーケティング
社会的な生活環境や自然環境の保護を考慮に入れたマーケティング



★消費者行動論:豊かな消費社会が前提
・貧しい時代は最低限の衣食住で精いっぱい
  →豊かな社会になってさまざまな消費者行動が出現
・販売拡大を目的とした消費者行動論
   =消費社会の善悪は問わない
    (消費拡大→経済発展→良い,という前提)
 ←→欲望の無限の拡大でなく,欲望のコントロールへ

「豊かな社会」についてのカトーナの整理

経済環境の5つの変化
  (1) 収入の増大
  (2) 貯蓄資産の増大
  (3) 信用販売(月賦・クレジット)の普及
  (4) 消費全体における非必需耐久財の
    占める比率の増大
  (5) マスコミによる経済情報の迅速な伝搬
消費者行動の3つの変化
  (1) 必需的・慣習的・契約的消費の減少
  (2) 自由裁量的支出の増大
  (3) 自由裁量的貯蓄・投資の増大


■今後の講義内容

  • 消費者行動の心理学
  • 消費者問題と消費者運動
  • 消費社会の問題点


■消費者行動の心理学

これから,消費者行動の心理学のいくつかのトピックを解説する。
限られた時間の中では取り扱えない話題も多くあるので,興味を持った人は以下の参考文献を勉強することをお奨めする。

 ・杉本徹雄編著『消費者理解のための心理学』
    福村出版,1997(2600円+税)
 ・飽戸弘編著『消費行動の社会心理学』
    福村出版,1994(2500円+税)

※消費者行動の心理学的研究の動機
  =マーケティングにおける必要が大きい
   《人はどうしてモノをほしがるのか?》
   ⇒《どうすれば売れるか?》


★心理学者レヴィンによる行動の一般的法則



1.問題解決としての購買意思決定

  購買意思決定は,一種の問題解決行為
   →問題解決過程として捉える

▼問題の認識
 ・現実の状態(初期状態) …例:空腹
 ・目標状態  …例:空腹が満たされた状態
  ……この2者のズレが大きいとき,問題が認識される

▼購買意思決定問題が認識されやすくなる条件
(1) 目標状態の水準(またはその知覚水準)の上昇
   …広告や知人の薦めなどによる欲求の増大
(2) 初期状態の水準(またはその知覚水準)の低下
   …現状への不満の増大

▼認識の状況
(1) ルーチン的問題解決 routine problem solving
   反復的な購買行動;想起される選択肢がひとつだけ
     例:いつも使っているものを切らした
(2) 限定的問題解決 limited problem solving
   製品についての知識があり,いくつかの選択肢が
   想起される
     例:コンビニで飲み物を買う
(3) 広範的問題解決 extensive problem solving
   製品についての学習を要する
     例:パソコンを買う

▼問題認識のされ方
どのように問題を認識したかが意思決定に大きく影響

・問題認識の心理的構成による意思決定の変化
  =フレーミング効果
(問題A) 12500円のジャケットと1500円の電卓を購入しようとしたところ,自動車で20分かかる支店に行くと1500円の電卓が1000円で売られていることを知った。
(問題B) 12500円のジャケットと1500円の電卓を購入しようとしたところ,自動車で20分かかる支店に行くと12500円のジャケットが12000円で売られていることを知った。

・心理的財布:状況依存的な問題認識
  同じ商品に同じ金額を払った場合でも,満足感や
  心理的痛みが異なる

表:種々の心理的財布とそれらに対応する商品
(小嶋・赤松・濱,1983 を改変)
心理的財布の因子 対応する商品の例
ポケットマネー因子 頭痛薬,ビタミン剤,目薬,週刊誌,ガム,チョコレート,募金
生活必需品因子 冷蔵庫,洋服ダンス,洗濯機,カラーテレビ,外出着,ハンドバッグ,電子レンジ,家族旅行の費用,ルームクーラー,化粧品
財産因子 分譲土地,分譲マンション,建売住宅,自家用車,ピアノ
文化・教養因子 絵・彫刻の展覧会,音楽会,観劇,レコード,楽器,映画
外食因子 外食代,喫茶代
生活水準引き上げ因子 カセットテープレコーダー,電子レンジ,ルームクーラー,百科事典,8ミリカメラ,ピアノ
生活保障・安心因子 火災保険料,生命保険料,お中元・お歳暮
ちょっとぜいたく因子 ビデオデッキ,食器洗い機,乗用車
女性用品因子 装飾品,ハンドバッグ,外出着,化粧品

━━━━━━━━━ここまで━━━━━━━━━


2.消費者の知覚

※知覚=心理学用語;
    外界の情報を五感を通じて入手し,意味づけすること
※ここでは特にマーケティング情報の知覚を扱う

▼知覚と情報処理過程


▼接触過程
・接触の選択的性質
  人は接触する刺激(*)のすべてを受容するわけではない。
  →接触の回避;例:テレビCM,ダイレクトメール

*刺激:心理学用語。人間の行動を,外界の刺激に対する反応として捉える。
▼注意過程
・刺激要因
  ・物理的特性:大きさ,色,音,動きなど
  ・認知的特性:孤立,対比,情報量など
  ・情緒的特性:子ども,動物,女性モデルなど
・個人要因
  個人的な興味,価値観,ニーズなどが注意に影響を与える
・環境要因
  時間の余裕,気候の快不快など

▼解釈過程
解釈=刺激に意味を割り当てること
・自動処理
  ・見慣れた刺激→自動的に処理
  ・見慣れない刺激→注意を働かせ意識的に処理
・理解レベル
  ・同じ商品を見ても理解のレベルによって受け取る意味が
   異なる
  ・深く理解された商品は,より強く記憶される



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