ふじざくら No.16

山梨県立女子短期大学図書館(1999.12)




あの図書館の匂いよ


国際教養科教授 長倉禮子

 本学の図書館でも情報検索のサーヴィスが本格的に稼動し始めた。この夏私もインターネットを通じて居ながらにして膨大な資料をアメリカの大学から入手した。内外の多くの図書館にお世話になっていた頃のことを思うと隔世の感有りである。その頃は資料を求めて図書館を行脚し、カタログを根気よく繰って文献を捜し、必要箇所を写すといった途方もない労力を費やしていた。しかし、今にして思えばそれは珠玉の体験ではなかったろうか。図書館の門を潜るときのあの緊張感、それは日常とは切り離された神聖な空間、礼拝堂へ入る時の畏敬の念にも似ていた。あの充実したしじまに入っていくときの感情の高まり、それはデートするときの期待感にも比せられようか。カタログ(その多くは人々の手垢で赤茶け、角が摩滅してしまっていたが)を繰る時、どれだけ多くの人々が黙々と同様な作業をしてきたことかという感慨。それからあの匂い、それは紛れもなく「図書館の匂い」であった。何百年も昔の人がふと私の前に姿を表しても不思議ではないあの神秘の空間は、得も言えぬ芳香を放っていた。
 いま私の念頭にあるのは十年ほど前のワルシャワ大学での体験である。ワルシャワ大学はポーランド最古の総合大学で、その図書館は十七世紀からの新聞を所蔵している。私はここで十九世紀の新聞記事を調べていたが、イギリス、フランスのクリミアへの出兵といった記事が眼に飛び込んできた時には、歴史で習ったことのある過去の一事件に過ぎなかった事が生きた現実となって迫ってきたのであった。同じ事件をクラクフ、ポズナニ、ルヴフと三か所の新聞に追った時などは分割時代のポーランドの姿がはっきり見えてきて、この国の歴史を追体験できたような興奮を覚えた。そしてあの気品ある図書館の匂い・・・。図書館には厳粛な静けさがみなぎり、みな潜心して読み耽っていた。裏も表も余白がないほどに書き込んだ小さな紙切れにカタログ・ナンバーを書いて司書に渡し、貸し出してもらった本を一生懸命手書きで写していた。思えば戦争が終って間もない頃の私たちもそうだった。貧しさの中で学ぶことに飢えていて、学ぶことの尊さとその充実感を味わい、時を惜しんで勉強した。そして手で書き写すことによって多くのことを心と頭に写しとったのではなかったか。本当に豊かだったと思う。インターネットで居ながらにして簡単に入手できた膨大な資料を前にして、私は図書館のあの匂いに限りない郷愁を覚えるのである。





NACSIS-ILLでの文献複写・相互貸借のご案内


 NACSIS-ILLとは、図書館間で行われている相互貸借サービス(文献複写や資料現物貸借の依頼および受付)のメッセージのやりとりを電子化したシステムです。特に次のような利点があります。

  • 従来、郵便やFAXで行っていた依頼がオンラインで直ちに先方に届きます。
  • 依頼が断られた場合は、自動的に次の図書館へ転送されます。





NACSIS-ILL利用者の声



 私は今、卒論のために本図書館の文献複写を利用しています。他県の大学図書館に所蔵されている論文や雑誌の複写物を簡単に手に入れることができ、とても役立っています。相互貸借に関しても、必要な本を取り寄せてもらえるので助かります。 研究や調査のためばかりでなく、個人の興味・関心のためにも利用される文献複写や相互貸借は、今後の「生涯学習の場としての図書館」の役割への期待にも大きく関わっていくのではないでしょうか。

(国文科2年土澤理恵さん)


 卒業研究で論文を書くにあたって、何回か文献複写の依頼をしましたが、コンピュータの導入によって、文献が手元に届く時間が大幅に短縮され、とても便利になったと感じています。 また、県短の図書館にない資料もネットワークシステムによる相互貸借で簡単に手に入るので、わざわざ自分で遠くの図書館に借りに行くという手間が省け、利用しやすくなったので、これからも図書館に足繁く通いたいと思います。

(国文科2年川上明子さん)





文献複写・相互貸借・依頼・受付件数(各年4月〜11月現在)




他大学、他機関などからの文献複写・貸借受付が増えています!!

文献複写サービスを利用される方へ
  • 「文献複写申込書」に雑誌の場合は誌名・発行所・巻号・ページ数・発行年・著(編・訳)者名・論文名を記入、図書の場合は書名、発行所、発行年、著(編・訳)者名を記入して受付カウンターに提出してください。


  • 文献複写料金は実費がかかります。(複写料+送料+振込手数料)

  •   ※各大学・研究機関によって経費は異なります。

相互貸借サービスを利用される方へ
  • 「相互貸借申込書」に資料名、編著者名、出版社、発行年を記入して下さい。


  • 借受けした資料は、本学図書館内で閲覧が可能です。





現在、インターネットの普及により様々な情報が得られるようになりました。
文献情報や普段の生活の中で役立つホームページをご紹介します。


 日本国内図書館OPACリスト


 http://ss.cc.affrc.go.jp/ric/opac/opac.html/

 全国の公立、市立、大学図書館などの図書館情報や資料の蔵書検索などが可能です。



 Books(日本書籍出版協会)


 http://www.books.or.jp/

 現在日本で入手可能な書籍検索が可能です。



 青空文庫


 http://www.aozora.gr.jp/

 作家別リストで誰がどのような作品を書いているかわかります。



 総務庁統計局統計センター青空文庫


 http://www.stat.go.jp/http://www.aozora.gr.jp/

 日本や世界の社会・経済・文化などの統計情報を入手できます。



 企業インデックス


 http://www.nihon.net/combbs/

 日本の企業種別、50音別リストで各企業へアクセスができ、各企業からの詳細情報も入手できます。



 就職関連サイト


 http://www.tc.chiba-u.ac.jp/worklnk.html

 求人情報や就職活動で役立つ情報源が豊富にあり、各業界の先輩方からのアドバイスも参考になります。



 山梨グルメランキング


 http://halfmoon.dcc-wao.com/~nagakub2/

 県内のおいしいお店を知りたいときに…



 レシピデータバンク


 http://www.tv-asahi.co.jp/broadcast/ryoban/

 毎週日曜日午後6時から放送されている「料理バンザイ!」で紹介されたレシピがチェックできる他、好きな素材を選択して検索ができる点が魅力です。



 CONCERT WEB


 http://www.theconcertweb.com/

 世界各国で開かれるコンサート情報をチェックでき、アジア地区をクリックすると日本の情報も手に入ります。



 シネマスクランブル


 http://www1.mesh.ne.jp/cinema/

 映画の最新情報、来日記者会見の詳細などがチェックできます!


★ 当館にもインターネットや、ホームページに関する資料がありますのでご利用ください。







本と図書館と私

幼児教育科助教授 坂本玲子

 幼い頃、眠る前に母に物語をしてもらう習慣があった。どこの親も同じようなことをしていたのだろうが、今思うと母の話はけっこう「いけて」いた。市原悦子ばり(?)とまではいかないにしろ、私の物語への傾倒をあっという間に促した。野原を駆け巡り、生傷の絶えないおてんばであったが、本もよく読んだ。出かけるといつも本をねだり、家に帰ると読み終えるまで眠らなかった。本の匂いが好きで、寝転びながらそれを嗅ぐときの無償の喜びは今もくすぐったい感覚で残っている。父の仕事の関係で転校が多く、ともすれば友人より本の方が近しく、小学校、中学校と、勉強はしなかったが、図書館の本はよく借りた。私と「世界」との出会いは本の中であり、図書館は大きな疑問符のついた「世界」への一番の入り口であった。

 しかし、それがたぶん高じて、(誰の思春期もそれなりの曲がり方をするのだと今は思うが)私の中で異変が起こった。「現実」がことごとく色あせて見え、「本の世界」から戻りにくくなった。「まずいな」と自分で思った。自律神経症状まで出始め、「このままでは狂ってしまうかもしれない」なんて、「罪と罰」を読みながら考えた。かくして高校1年生、私は本を一切読まないこととした。しかしかわりに現われるはずの「現実」はやはり空しく、つまらなくて高校へは行ったり行かなかったりであった。行かない時はついつい図書館に行くのだが、努めて本は読まず、絵画集などを価値観抜きにながめていた。何を考えているの?と問われれば「非存在感」などと答え、何もしない無能ぶりは改めなかった。

 そんな訳で、怠けた苦しい日々は大学に入って「もっと変な」連中に会うまで続いた。全国から集まった「変な」先輩や友人と彼らの活動によって初めて「現実」はありありと自分のものになったのだ。今まで読まなかったジャンルの本を読み、古本屋にもよく寄った。再び本とのつきあいが始まったが、以前のような畏敬の念ではなく、友人としてのつきあいに似たものとなった。同時に「現実」のほんのひとつ、たとえば、恋なんかが、やっと存在感を持ち始めたのだった。思えばかなり偏った、遅い発達の子であったよと、今は思う。





本学先生の研究書紹介


『詩の継承』(おうふう社 平成10年刊)

☆三浦 仁 著

 本学紀要の17,8号に、室生犀星研究の一環として「犀星から朔太郎へーその影響」を調査し発表したことがある。近代詩の確立者であり最も独創的な詩風を誇るとされる朔太郎に、詩友犀星の感化があまりにも広く且つ深く及んでいることに驚嘆したものであった。近代の主要な詩人と詩集を対象に、その詩業が同時代又は次代にいかに承け継がれたか、を検証することを思い立ったのはこれが契機で、以後約年にわたり「詩語・詩想の継承」と題して紀要に連載することにもなった。本書はこれらを一本にまとめたもの。『新体詩抄』・『於母影』・落合直文・北村透谷・島崎藤村・薄田泣菫・蒲原有明・『海潮音』・北原白秋・室生犀星の章から成る。個別の詩人研究の中で、詩の影響関係を論じた論文も少くないが、詩史の流れに沿って系統的に、詩の継承の全容を瞰望したところに、本書の多少の新味があろうか。

(三浦 仁教授)





『近世の芸能興行と地域社会』(東京大学出版会 平成11年刊)

☆神田由築 著

 江戸時代の芸能興行は江戸・京・大坂をはじめ、市場や港町など人々が参集する場所で行われていたが、瀬戸内海地域には実に多くの、そうした芸能興行の場があった。そして、これまた実に多くの芸能者たちが瀬戸内海を頻繁に往来していたのである。さらに遊女や市場商人、彼らに吸着して利益を得ようとする侠客なども、さかんに移動を繰り返していた。江戸時代の古文書からは、彼らの様子がありありと浮かび上がってくる。その面白さに魅せられて、私は彼らの足跡を追い続けてきた。本書はその成果である。各地の古文書をひもといていると、ある場所で出会った役者と別の場所で再び巡り会ったり、思いもかけぬ発見をすることがある。そうしたとき、まるで旧知にあったような嬉しさをおぼえ、古文書に親しむ醍醐味を味わう。本書から、そういった古文書を読む楽しみをも感じていただけたら、というのが私のささやかな願いである。

(神田由築助教授)


★上記の資料は三浦先生、神田先生より寄贈して頂き、図書館に所蔵しています。ご利用ください。





図書館利用統計
(平成11年4月〜平成11年11月)


 今年4月から当館も電算化となり、統計もいろいろな視点から分析できるようになりました。

 下表のとおり、1日の利用状況が時間帯で把握できます。


【貸出冊数】



【時間別貸出人数】



  編集後記 

 今年も残すところあとわずかとなり、学生の皆さんは特にレポートや論文などで大忙しの日々を送っていることと思います。図書館で快適に学習しやすいように図書館職員もできるだけ皆さんの力になりレファレンスサービスなどの充実をはかっていきたいと思います。解らないことなどがありましたら、気軽に図書館職員にお尋ね下さい。これからもどうぞよろしく!



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最終更新日 05/5/2
制作 山梨県立大学 (文責 : 図書館)
Yamanashi Prefectural University