21財団<産業情報山梨>誌12月号巻頭言原稿


『ゆく河の流れは絶えずして・・・』

 

 「・・・しかももとの水にあらず.よどみに浮ぶうたかたはかつ消えかつ結びて久しくとゞまりたるためしなし.世の中にある人と栖と又かくのごとし」『方丈記』
 一年前には健在であった橋本政権はすでに消滅し,これを引き継いだ小渕政権は時代の流れの大渕で,次々と浴びせられる飛沫に翻弄されています.そして,この国の人々もまた出口の見えない「無常」の世界に打ち震えています.政権は変っても,一向によくならない景気,もはや誰が政治を担当しても世の中変らないんじゃないかと,諦めが充満しています.
 ローマ帝国の衰亡,平家の没落等々,歴史の栄枯盛衰を眺めてみると,すべからく成功の要因が没落の原因になっていることに気づきます.それなのに衰退が始まると夢よもう一度とばかりに成功の要因を補強しようとします.その結果ますます衰退が激しくなります.これがパラダイムと呼ばれるもので,過去の成功のパラダイムにいま居座りつづける限り不況の出口は見えてきません.鎌倉や徳川政権の成功は,京の貴族文化パラダイムについての無知ゆえでした.歴史の変革は,意図せざる無知によるものだと筆者は確信しています.
 昭和26年4月11日,連合国最高司令官マッカーサー元帥は,ワシントン政府の不興をかって更迭されました.彼は,日本を去るにあたって「老兵は死なず,ただ消え去るのみ」と言ったと伝えられています.旧きよき時代のアメリカ紳士WASPの教養と矜持を併せ持つマッカーサー元帥にとって,第二次世界大戦後の冷戦世界はもはや異質のパラダイムでありました.
 歴史は,
経験豊かな過去の成功者が発想して成るのではなく,旧きよき時代の教養に無知で粗野な人だけが残った時,その変化が急激に起っていくもののようです.いまこの国に必要なビッグバンは,過去の成功のパラダイムに無知で無教養な人達,換言すれば若い人たちが立ち上がる以外にありません.まさしく,「老兵は死なず,ただ消え去るのみ」です.
 疾風怒涛の
1998年が今暮れようとしています.
新しい年が,読者の皆さんにとって穏やかな「川の流れのように」、よい一年でありますように.

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