第4章 プラズマ中の電磁波動

(南極のオーロラ:竹内智さん撮影)

等価比誘電率

プラズマ中を伝播する電磁波の分散特性

CMAダイアグラム


1.等価比誘電率

この章では,プラズマ中を伝播する電磁波についてその伝播特性を論じてみようと思います.プラズマが,宇宙を構成している基本物質でありますから,宇宙空間中を伝播する波動の殆どは電磁波というモードであることは容易に想像がつきます.したがって,プラズマ中の電波伝播は宇宙を語るときに必須なテーマであると言うことができるでしょう.

それではプラズマは電磁波からみたときどのように見えるのでしょうか.これは大変難しい問題です.「群盲像を撫でる」という諺があります.これは,視覚障害者に対する差別用語ですからあまり良い喩ではないのですが,まさにこの諺の趣意にそっくりです.プラズマ中を電波が通るときに,電磁波はどのようにプラズマを見るかと云うことは殆ど完全に私たちがプラズマをどう見るかと云う問題に帰着されてしまうのであって,決して第三者としての電磁波がどうプラズマを体験するかと云う問題ではありえないのです.

電磁波がプラズマ中を伝播するときに電磁波に与えられたプラズマの存在の効果の中の何に着目して,その結果そこから私たちが何を読み取ろうとするかと云う問題,それがここでの主題に他ならないのです.まあしかし,こう云うことは何もプラズマ中の電波伝播だけの問題ではなく,私たちが自然を語るときには常にこういう扱いしかしていないのだと云うことに気付くことが必要なように思われます.ですから,私たちが自然を「科学する」ときは,結局人間の認識におさまる事象を,それも近似的に認識しているに過ぎないのだと云うことができるでしょう.まさに,「群盲像を撫でる」状態なのです.

そこで,この章では,プラズマを荷電粒子群を含む冷たい気体として扱い,その中を伝播するのなら電磁波はどのようにプラズマの影響を受けるだろうかという問題を扱うことにします.そうであれば,プラズマ媒質を電磁波はどういう連続媒体としてみるかと云うことが第一の問題となります.

まず,運動量輸送方程式は,

1)

のように与えられます.ここに,P(r,t)は運動量流テンソルで,

(2)

のようになりますが,温度0のプラズマを仮定していますので分布関数は,

ここで,δ(v)はディラックのδ関数を表わします.ゆえに,P(r,t)=0.また,衝突も無視しますと式(1)は,

   (1’)

となります.いまn(r,t)が場所や時間に無関係な量だとし,加速度αは電磁力によるものだけに限定するとしますと,

(3)

得られます.

ここで,Maxwellの方程式を導入しましょう.

(4)

となります.

(3)を指数表示しますと,

   (3’)

ここで,B0の向きをz方向に採り,式(3’)を直角座標の各成分に分けて表示しますと,

(5)

となります.これらよりux,uyおよびuzを求めますと,次式のようになります.

ただし,ここに

   (6)

と置きました.そして,ωHは,サイクロトロン角周波数です.

これらの関係を式(4b)に代入しますと,

となります.ここで等価的比誘電率を次のように定義します.

(7)

ただし,ここに,

   (8)

となります.ここで,

(9)

と置き換えました.

こうして,プラズマ中を伝播する電磁波は,プラズマ空間を等価的に異方性の誘電体とみなして伝播するであろう事が期待されるのです.

 


2.プラズマ中を伝播する電磁波の分散特性

こうしてプラズマ中を伝播する電磁波にとっては,プラズマは単なる異方性誘電体であるということになりました.それでは実際この中を電磁波はどのように振舞いながら伝播するのでしょうか.ここではプラズマ中を伝播する電磁波の分散特性を求めようと思います.

 

前節の結果より異方性プラズマ中でのマックスウェルの方程式は,

と表現されました.ここに・はテンソル積を表わします.両式より,

1)

ただし,ここに

と致しました.

(1)の解として,

(2)

を仮定してみましょう.そして,これを式(1)に代入しますと,

(3)

を得ます.

(3)を直角座標の各成分に分解してみましょう.その結果,次式が得られます.

(4)

ここで,E0x,E0y,E0zの全てが0とならないためには,

   (5)

であればよいでしょう.これがこの場合の分散式に相当します.ここでは,差し当たって特別な場合を取り上げて様子を眺めることにしましょう.

 

静磁界と垂直方向に伝播する電磁波

 静磁界の方向をz軸と定めました.そこでこれと垂直な方向としてy軸方向に伝播する電磁波の特性を調べて見ましょう.式(4)において,kx=kz=0として,

   (6)

となります.そこで,

(7)

と置くことにしますと,上式より,

(8)

であり,これをηの降冪の順に配列しますと,

となります.これを解きますと,

を得ます.

ここで,複号の中,正を採りますと,

(9)

となります.また,負を採りますと,

(10)

となります.

 

上図を見て分かるように,正常波は位相速度も群速度も正であるのに対して,異常波は位相速度は正ですが,群速度が負になっています.後者のような波を後進波(backword wave)といいます.後進波は波が進む方向とエネルギーが進む方向が反対方向を向いている極めて特殊な波です.よく映画の駅馬車の走るシーンで車輪のスポークが馬車の走っている方向と逆になって見える瞬間があります.筆者は子供の時にあれが不思議でなりませんでした.今では,ストロボ効果としてよく知っていますが…….後進波は,あたかもあれと同じようなものです.

さて,上の計算の結果を電磁界の関係式(4),

   (4’)

に代入して調べてみましょう.

(9)を(4’)の第1式に代入しますと,η+に対して,

となり,前節式(8)より,

   (11)

となります.また,η-に対しては式(4’)よりEzが対応します.

(11)にもとづいて一例について数値計算したものが下の図です.異常波はω=ωHの時だけ左遷性円偏波ですが,それ以上の周波数では左旋性の楕円を描きながら進行し,周波数が高くなるにつれて長楕円になっていき,その極限では直線偏波になることが分かります.

 

 

(11)はxy平面内を楕円状に回転しながら伝播する波を表わしてています.こういうタイプの波のことを,不幸にして異常波(extra-ordinary wave)と名付けています.そして式(10)の波を正常波(ordinary wave)と言います.

 

 

 

正常波モードでは,ω>ωpにおいてはη2>0であり,この状態では電波はプラズマ中を伝播することができます.しかし,ω<ωpにおいてη2<0となり,伝播不能となります.その境が,L=1,すなわちω=ωpであり,ここを遮断周波数と言います.すなわち,正常波モードは,プラズマ振動周波数より低い周波数の電磁波はその中を通過することができず,ここで跳ね返されることになります.国際短波通信で,地球の裏側にまで情報が伝わるのは電離層のプラズマ振動周波数より電磁波の周波数が低いために,電離層によって反射された電波が地球の裏側に回り込むために他なりません.

静磁界と同方向に進む電磁波

次に,静磁界と同方向に伝わる電磁波について調べてみましょう.この場合の分散式は,式(5)においてkz以外を全て0と置いて,

   (12)

となります.

ここでkzを,kz=k0ζとし,上式を展開しますと,

   (13)

となります.すなわち,

   (14)

です.よって,

であり,よって,

   (14’)

となります.

上式により数値計算した結果を下の図に示します.

 

 

 

 

 

ところで,電磁界の間には,

(15)

なる関係があります.ただし,ここまで複号の順序は同じに採ってあります.

(15)のでEy/Exが−jのときは右ネジの関係で波動が進行しますから,これを左旋性円偏波と言い,+jの時は右旋性円偏波と言います(下図参照).つまり,静磁界に沿って伝播するプラズマ中の電磁波は右周りの円偏波と左周りの円偏波の二つに分れて伝播することを意味しています.

 

     

 

ところで,通常の直線偏波の電磁波も,右旋性円偏波と左旋性円偏波の二つからなります.そしてこの両者は同じ速度で伝播します.ところがここでの電磁波はこれとは違います.式(14’)にみるように両偏波の等価的屈折率ζが異なります.ということは直線偏波で入射した電磁波であっても,プラズマ中に入るや偏波面がゆっくり回転して行くことになります.ちょうど螺旋階段のステップのようです.その模様を描いたの下図です.このような偏波面の回転をファラデー回転(Faraday rotation)と言います.

 

 

ホイッスラー波動

(14’)の複号で−を取った右旋性波動では,ωHe(電子のサイクロトロン角周波数)より低い周波数ではつねにζ2が正になって波動は伝搬可能になります.こういう波動をホイッスラー(whissler)波と言います.これはローパス型の波動ですから,一般的に低周波波動です.この波は電離層伝搬の観測によって発見されました.

北極から南極に至る磁力線が有りますが,極地付近で生じた雷雑音電波が両極地間を伝搬し,そのうち右旋性波動はホイッスラーモードとなります.これは上述のように低周波ですから,アンテナ電流を直接検波することによって耳で聞くことができます.しかも,上図からも分るようにこの波動は,その分散が激しいため,両極地間を往復するうちに高い周波数から低い周波数へとスペクトラムが時間的に配列され,あたかも誰かが口笛を吹いているように聞えます.ホイッスラーの名の起りはここから来ました.誰が口笛を吹いているかと考えた人がいましたが,極地のオーロラ圏で聞えるのですから,これはもう天使しか考えられません.そこでホッスラー波動のことをエンジェルエコーなどとロマンチックに呼ぶ人もいます.そのスペクトログラム観測結果の一例を下の図に示します.図は,横軸に時間を,縦軸に周波数を目盛っています.黒い帯状のトレースがホイッスラーモードで,高い音から低い音へと連続して周波数が変化しているのが分ります.図には形状の違うスペクトラムがA,B,Cの3種類現れていますが,これらは夫々電離層の異なる層を伝搬路としたものと思われます.

 

 

 


3.CMAダイアグラム

いわゆる冷たいプラズマ中の波動の伝搬を総合的に表現したものをCMA図といいます.これは,Clemmow-Mullaly-Allisの3人の名前の頭文字を並べてものです.それを下の図に示します.この図の見方を説明して,この章を閉じることにします.

 

 

まず,図の横軸は電子密度に関係し,縦軸は印加された磁界強度に関係しています.図中の領域は遮断や共鳴条件を表わします.それらによって囲まれた領域では,その領域特有の種類の波動が存在します.各領域中の楕円や円・8字型の記号は,それに記されている種類の波動の存在を示します.例えば図の一番上の左側を例に採ると,この領域にはRで示す右回り波・Lで表わす左回り波,およびXおよびOで示す異常波および正常波が存在していることを表わしています.そして,円や楕円や8字形の図形はその中心からのなす長さが,印加磁界(磁界の向きは図の下から上にとってある)を基準とした方向となす角度に対する位相速度を表わしています.

ここで,高域混成共鳴(upper hybrid resonance)とは,

(1)

を満足する曲線であり,低域混成共鳴(lower hybrid resonance)とは,

(2)

を満たす関係を表わしています.ここにΩHは,イオンサイクロトロン角周波数

を表わします.ここに,Ziはイオン価数,Mはイオンの質量です.

(第4章終り) 


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