第8章

コンピュータネットワークの発展

(revised on 2009/07/04

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 ここでは,主としてWAN( Wide Area Network)について,その高速化の話題を紹介します.

1. ATM

3.xDSL

4.CATV

5.WDM

6.GbE


第1節 ATM

1.1 ATM方式のネットワーク

 次世代B-ISDNによるWAN(Wide Area Network)のマルチメディア伝送方式とされているATM(Asynchronous Transfer Mode)方式は,1980年代の初めからCCITT(現ITU-T)で検討が加えられてきた広帯域デジタルネットワークのデータリンクレベルの通信プロトコルです.そのイメージ図を図8.1.1に示します.また,ATMフォーラムによって主としてATM-LANについての規格化が進められてきました.
 ATMは,電話や音声伝送のような比較的低速でほゞ一定の速度のデータを転送するだけではなく,後に述べるようにスーパコンピュータデータや動画映像など様々な特性を有するデータの伝送を想定しています.
  ATMでは,まずネットワークに接続されているすべてのATM端末やATMノード装置(交換機等)に,あらかじめコネクションが定義されています.データを送り出したい端末は,そのデータ転送に必要な伝送帯域量や,そのデータが時間的な遅延を伴ってもいいものか否か,もしネットワーク内で輻輳などが発生したときにパケットの廃棄をしてもよいか否か等々を決めて,このコネクションに接続を要請します.ネットワーク内の各ノードはこの要請に対して応えられるか否かネットワークの各ノードとネゴシエーションをした上で,受け付けられるものであればコネクションを設定し,そのことを送信端末と受信端末に知らせます.こうしてできあがった接続をバーチャルコネクション(Virtual Connection)といいます.
 接続許可された送信端末は,データを48オクテットを単位とするセグメントに分解し,その分解の順序番号を書きこんで,さらに5オクテットのヘッダを貼り付けて,合計53オクテットのATMセルを作ります.このヘッダには宛先が書きこまれています.各ノードのATMスイッチはこのヘッダ情報を見ながらセルを順次転送します.こうして,セルは受信端末に届けられますが,受信端末はばらばらになったセルを組み立てて全データを復元した後上位のレイヤに転送します.たとえば,このデータがIPデータグラムならIP層に転送し,IPパケットとしての処理をした上でTCP層に渡し,インターネットアプリケーションとして処理していきます.
 このように,ATM方式は,エンドエンド間のコネクション型の通信であり,今まで勉強してきたLANのデータリンク層の方式がコネクションレス型であったのとは著しく趣を異にします.上述のようにATMは,ATMセルというパケットを使いながらATMスイッチというハードウェアでパケットを転送するコネクション型の伝送方式です.パケット通信のようでもあり回線交換型でもありという,風変わりな方式です.ソフトウェアでルーティングしているパケット通信と比べて,ハードウェアでルーティングすることから一般に高速通信であり,ATMはマルチメディアに最も適合的な方式である考えられてきました.
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 図8.1.1 ATMネットワークイメージ図 
 

1.1.1 ATMネットワークの特長

 ATMネットワークには以下のような特長があります.すなわち,
(a) 交換/半固定/固定,1対1/1対多接続,即時/予約/専用など多種のサービスにわたること,
(b) 単一/マルチメディア,コネクション/コネクションレス,片方向/双方向接続が可能であること,
(c) N−ISDN,フレームリレーなど他種のネットワークとのインターネットワーキングが可能であり,シームレス化が容易であること,
(d) 媒体占有型であるためネットワークの拡張性(scalability)が高いこと,
(e) OSI参照プロトコルのネットワーク層を含む全ての上位階層プロトコルを受容できること,わけてもTCP/IPとインターネットアプリケーションがサービス可能であること,
などがあげられます.
 

1.1.2 ATMネットワークで提供されるサービス

 一般的にATM方式で提供される主な通信サービスとしては以下のようなものが可能だといわれています.すなわち,一過性の大量のデータが飛来するバースト性の高い不安定なデータや,動画映像や会話音声のように時間連続性を高度に要求されるデータの伝送に対して高い適応性を有します.また,ハードウェアスイッチングであるため技術革新による高速性が原理として保証されていもいます.これらの利点は,マルチメディア情報伝送に極めて親和性が高いのです.

対話型サービス

  • 広帯域テレビ電話
  • 広帯域テレビ・ビデオ会議
  • ビデオ監視
  • ビデオ/オーディオ情報転送サービス
  • 高速非制限デジタル情報転送サービス
  • 大容量ファイル転送サービス
  • 高速リモートログイン機能
  • 高速テレファックス
  • 高解像度映像配信サービス

メッセージ型サービス

  • ビデオメールサービス配信サービス
  • ミックストドキュメント配信サービス

検索型サービス

  • 広帯域ビデオテックス
  • ビデオ検索サービス
  • 高解像度イメージ検索サービス
  • 文書検索サービス
  • 大容量データ検索サービス

非個別制御型分配サービス

  • 現行品質テレビ分配サービス
  • HDTV分配サービス
  • ペイテレビサービス
  • 文書分配サービス

1.1.3 ATMネットワークプロトコル

 ATM参照UNIプロトコルの構造は図8.1.2のようになっています.ATMはN-ISDNなどと同じように,呼接続のシグナリング手順やユーザデータの時系列的なマッピング手順を示す縦型のレイヤと,プレーンと呼ばれる水平構造からできているのが特徴です.また,これを縦型レイヤ構造のみのOSI(Open System Interconnection 開放型システム相互接続)参照プロトコルと比較したとき,ATMはそのデータリンク層までにしか対応しないため,かえってOSIネットワーク層以上のいかなるプロトコルやサービスアプリケーションをもサポートできるのが一大特長です. 以下,各レイヤについて簡単に説明しておきます.
 

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図8.1.2 ATM参照プロトコル

 
 呼制御信号プレーン(C-plane)は,UNI(User Network Interface ユーザーネットワークインターフェースでは,電話をかける場合に受話器を取り上げて接続要求をしたり,会話終了後に受話器を置いて回線を切断したりするのと同じように,ユーザデータの転送に先立ってATM回線に接続要求を出したり,データの転送終了後に切断を要求するコネクション制御シグナリングのみを行います.このプレーンでの上位レイヤは,Q.2931(N-ISDNではQ.931として仕様が記述されている)など接続にかかるサービスを提供するために参照されます.
 ユーザ情報転送プレーン(U-plane)は,送受信のエンド・エンド間でユーザデータの送受信をつかさどる部分であり,通常のユーザデータの送受信は専らこのプレーンで行われます.上位レイヤ(Higher Layer)は,TCP/IPなどの通信プロトコル及びアプリケーションにつながる部分です.
 管理情報転送プレーン(M-plane)は,故障情報・設備情報・通信品質(QoS(Quality of Service))などネットワークの管理を行いますが,全体の管理を行うプレーン管理,及びレイヤごとの管理を行うレイヤ管理とに分けられます.
 AALレイヤ(ATM Adaptation Layer)は,U-PlaneやC-Planeの上位レイヤから来たデータをその上位レイヤの要求するサービスに対応してAALタイプ1からタイプ5までの5種類のサービスに規定するCS(Convergence Sub-layer)と,CSからのデータを 48オクテットずつに分割したり,逆に48オクテットに分割されて到着したデータをリアセンブル(再結合)したりするSAR機能(Segmentation And Reassembly)を担当します.
 ATMレイヤは,制御プレーン・ユーザプレーンの区別なしに,AALレイヤからSAR機能によって分割されて渡された48オクテットのデータ(これをペイロードという)に5オクテットのATMヘッダを付加して,ATMセルと呼ばれる53オクテットのデータセルを構成し,エンド・エンド間でその転送だけをするためのレイヤです.
 物理層(Physical Layer)TCサブレイヤ(Transmission Convergence Sublayer)は,ATMレイヤからきた53オクテットのATMセルをSDH(Synchronous Digital Hierarchy 同期デジタルハイアラーキー)ベースのラベル多重化フレームに組み立てて,最後に同期を取りながらSTM(Synchronous Tranport Module 同期転送モジュール)フレームに乗せるTCS(Transmission Convergence Sublayer)層と,光ファイバか同軸ケーブルかなど伝送媒体に依存する電気的制御PMD(Physical Media Dependent 物理媒体依存)層とから構成されています.
 
 まず,B-ISDNネットワークでは,通信会社はネットワークに加入者のATM端末から,加入者の要求する回線に関係する全てのATMノードに対してVP(Virtual Path 仮想パス)と呼ばれるコネクションを設定します.すなわち,接続経路を示すためのインデックスとして,各ノードに対して固有のVPI(Virtual Path Identifier 仮想パス識別子)と呼ばれる数値と,ノードのATMスイッチの出力ポートを決めるためのインデックスとしてVCI(Virtual Channel Identifier 仮想チャネル識別子)と呼ばれる数値とを設定します.各ノードでは,後述のHCV(Header Converter ヘッダ変換部)にVPIとVCIとATMスイッチ出力ポート番号とが1対1に対応した対応表を格納しておきます.
 さて,いまひとつのATM端末からデータ通信のための接続要求が発せられますと,C-planeはそのAAL層によって,そのVPに対して伝送帯域やサービスクラスを端末の要求にしたがって設定します.その設定が完了してユーザが要求するVPが確保されますと,U-planeを使ってデータが転送されます.ネットワーク内の各ATMノードは,接続要求をした端末から指定されたVPIとVCIをもつデータセルが到来しますと,HCVの対応表によってATMスイッチを動作させ,このデータセルを次のノードに転送するのです.
 以上のATMアーキテクチャの中で一連のユーザデータの流れを模式的に表したものが下の図8.1.3です.
 

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図8.1.3 ATMのマッピングイメージ図

 
 先ず,IPデータグラムなど上位層からの一かたまりのユーザデータがAAL層に渡されると,AAL層CSサブレイヤでこのデータ全体のAALサービスクラスを指定するAALCSヘッダが付加されます.SARサブレイヤでは,受け取ったAALCSヘッダを含む全データをセグメントに分解し,それにセグメントのシーケンス番号・誤り訂正符号等々を格納する1〜2オクテットのフィールドでできたSARヘッダSARトレイラを付加し,合計48オクテットに分解してATM層に引き渡します.このSARヘッダ・トレイラは,その順序の確認や誤りの訂正などセグメント自身の保護のために付けられているのです.
 48オクテットのAALパケットを渡されたATMレイヤでは,後述の5オクテットのATMヘッダを付加して合計53オクテットのATMセルとして,下の物理層に引き渡します.
 53オクテットのATMセルを受け取った物理層では,SDHベースインターフェースにこれを引き渡します.SDHベースインターフェースには,155.52Mbps622.08Mbpsの2種類のインターフェースがありますが,それぞれのラベル多重化フレームにVC‐4やVC-4-4Cと呼ばれるヴァーチャルコンテナ(Vitual Cotainer)にATMセルを隙間無く詰めて,PMDサブレイヤに送ります.ユーザデータが無く,したがって詰めるべきATMセルがない場合には空きセルを作ってパディング(穴埋め)します.空きセルは何でも良いわけではなく,空きセルですということが分からなくては意味がありませんので,特殊な形をしています.空きセルについてはここをクリックして見てみましょう.ヘッダ部は空きセルであることを意味する特殊なVPIやVCIが詰められ,ペイロードには,FDDIなどで使われるPreambleと同じように,同期用のデータコードが詰められています.SDHインターフェースのフレームとバーチャルコンテナについてはここをクリックして見ておこう.
 PMDでは,使われる物理媒体の性格に合わせて符号化(コーディング)し,光または電気信号として回線に送出します.光ファイバの場合ならNRZ符号化方式が規定されています.
 以上は,送信時のU-planeプレーンの上から下への説明ですが,受信時の下位層から上位層への通信処理は全く可逆的ですので説明は省略します.
 

1.1.4 ATMセルヘッダの構造

 ATMレイヤにおけるセルは,図8.1.4のように全体53オクテットからなります.その先頭部5オクテットはヘッダで,その後に上述の48オクテットのユーザ情報データ(ATM情報ペイロードまたはただペイロードとも言うが続きます.48オクテットのペイロードにはAALレイヤで作られたヘッダやデータが埋め込まれています.
 

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図8.1.4 ATMセルの全体像

 
 ヘッダ部の時系列のフォーマットを図8.1.5に示します.図8.1.5で,GFC(Generic Flow Control 一般的フロー制御)は4ビットのフィールドで,UNIの場合だけに使われ,セルの衝突防止のために用意されています.NNI(Network Node Interface ネットワークノード間インターフェースでは,このフィールドはVPIとして使われています.
 

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図8.1.5 UNIのヘッダフォーマット

 
 すでに見たように,VPIはVCIと共に広い意味のアドレスを表現しています.ただし,電話番号やIPアドレスのような意味でユニークな宛先アドレスではなく,各ノードでローカルに定め,その情報は隣接したノード間でしか意味を持ちません.すなわち,あるノードでは到達したATMセルのVPIとVCIを上図のヘッダから読み取ると,それをもとにして自分のノードのVCI値に変換して次のノードに転送します.だから,VCIの値はノードを経由する度に変更されていくのです.その意味で狭い意味のアドレスではありませんが,これを繰り返しながら目的のATM端末に至れるという意味ではアドレスでもあるわけです.
 ATM方式は原理的にはコネクション型の通信方式であり,ユーザデータが転送される以前に制御プレーンのシグナリング機能を使ってコネクションが完成しています.このコネクション上の各ノードにおける転送経路をVCと言い,このコネクションに割り当てられた通信帯域がVPでありました.コネクションが設定された時点で,VPIやVCIはVPやVCのインデックスとしてユニークに設定され,ATM交換機のメモリーに記録されていたのです.VPIやVCIはこの意味で経路に付随したパラメータなのですが,これをたどっていくことでATMセルは受信端末にたどり着くところから,これをATMセルのセルフルーティング機能と言います.あたかもセルが頭脳を持っていて,ノードに到達する度に自分でスイッチを倒しながら目的地を目指しているように見えるのです.
 なお,VCやVPがデータ転送の間中固定的に設定されいて変化しないような接続形態のことをPVC(Permanent Virtual Connection),またこれが時々刻々変化するような接続形態のことをSVC(Switched Virtual Connection)と言います.SVCはB-ISDNの次世代交換技術であり,今後の発展が期待されています.PVCSVCについてはここをクリックして見てみよう.
 実際のATM交換機のブロック図を図8.1.6に示しました.同図のように,左側のネットワークを通じて伝送されてきたセルは,UPC(Usage Parameter Control 使用量パラメーター制御)において流量制御を受けます.UPCにおける流量制御とは,ユーザがATMネットワークにアクセスするにあたってパケットの単位時間流量をVPを設定するという形で予約していたのですが,実際のデータフローがその取り決め範囲内であるか否かをチェックすることです.このチェックに不合格となると,原則的にはセル廃棄がなされる可能性があります.
 次にOAM(Operation Administration & Maintenance 保守運用管理部)は,セル損失や誤配のチェックなどネットワークの保守や運用管理を行います.
 HCV(Header Converter ヘッダ変換部)で,到来したセルのVPI/VCIを読んで,この交換機のスイッチ構成に合致させて正しい出力ポートへ導くようにVCIを変換します.これによって,ATMスイッチがハードウェア的に動作してスイッチングが行われます.ATMスイッチには,大別して時分割型スイッチ空間分割型スイッチがあり,それぞれに多くの方式が提案されています.そのうちの時分割型スイッチであるバニアン(Banyan)スイッチの概念図を図8.1.8に示します.この図は,すでにVCIがHCVで変換されたものとして描かれています.参考のために,図8中のBanyanスイッチの論理的動作を図7に示しておきました.
 

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図8.1.6 ATM交換機の概念図

 
 このようにATM交換機群を多段に経過しながら,ATMセルはネットワーク内を転送されていくのです.すなわち,ATMネットワークは,その伝送帯域を仮想パスVPという概念で,伝送路を仮想チャネルVCという概念で認識するロジカルネットワークであると言うことができます.
 

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図8.1.7 Banyanスイッチの動作図

 
 再び,図8.1.5のセルフォーマットの話に戻ります.PT(Payload Type ペイロードタイプ)は,ユーザデータセル・OAM関連セルなどATMセルの種類,輻輳の有無などのソース管理セルを表す3ビットのフィールドです.
 

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図8.1.8 ATMスイッチの概念図

 
 CLP(Cell Loss Priority セル損失優先表示)は,輻輳など網の状態によってセル廃棄を優先させるか否かを表示する1ビットフィールドです.ここには1か0が入りますが,0は1より優先度が低く,輻輳時に廃棄されにくいことを表します.
 HEC(Header Error Control ヘッダ誤り制御)フィールドは,HEC以外のヘッダデータについて,生成多項式X8+X2+X+1のCRC(Cyclic Redundancy Check)符号を用いたBCS(Block Check Sequence)誤り訂正方式のために使われる8ビットフィールドです.
 

1.1.5 AAL(ATM Adaptation Layer)

 AALレイヤは,既に述べたようにSAR(Segmentation And Reassembly)サブレイヤヘッダ部(SAR-PDU(Protocol Data Unit)ヘッダという),およびトレイラ部(SAR-PDUトレイラという)の各フィールドに1,0のコーディングを行うことで,以下のような4種類のサービスカテゴリーが定義されています.
クラスA CBR(Constant Bit Rate 固定速度サービス)AALタイプ1として機能を実現しています.
クラスB VBR(Variable Bit Rate 可変速度サービス) AALタイプ2が想定されています.
クラスC コネクション型VBRであるAALタイプ3とコネクションレス型VBRのAALタイプ4.
クラスD コネクション/コネクションレス型VBRのAALタイプ5.なお,AAL5は,Cプレーンのシグナリングや,ATM-LANのIP over ATMに使われる標準的サービスタイプです.
 AALタイプとカテゴリーは,当初同一のものでしたが,発展の段階で変化して,別々の呼び名を持つに至っています.今後も,この部分には技術革新が注入されていくことでしょう.
 AALレイヤは,ATM方式の心臓部と言ってもよい重要なレイヤですが,詳細に過ぎるのでここでは省略します.

1.2 ATM-LAN

 1.1節で見てきたATM方式をLANに適用したものがATM-LANです.山梨大学のスーパーYINSはこの例です.LANにATM方式を取り入れる利点は,公衆ATM網B-ISDNの利点とまったく同様ですが,加えてB-ISDNが公衆網として普及してきたときにはLANと公衆網とがシームレスに接続されることになります.

2節 SDH/SONET

 SONET( Synchronous Optical Network)は,米国のベルコア社によって,光通信用の多重化規則として開発されたものをANSIが標準として定めた米国標準です.
 これに対して,SDH( Synchronous Digital Hierarchy 同期デジタルハイハラーキ)は,1988年に光ファイバ伝送・多重化・同期技術としてITU-Tによって標準化がなされました.それゆえ,両者は似通った形になっており,相互に互換性を持ちます.

 SONETおよびSDHのビットレートは下の表のようになっています.ここで,STM-1の伝送容量155.52MbpsはSDHとしての基本フレームであり,SONETではSTS-1の51.84Mbpsが基本フレームとなって両者は相違しています.なお,表中のOC(Optical Carrier)はしばしば使用される規格番号です.

 表8.2.1 SDHのレベルとビットレート 

SDHレベル (ITU-T)

伝送容量

SONET (ANSI) OC
0 ( STM-0 ) 51.84Mbps STS-1c OC-1
1 ( STM-1 ) 155.52Mbps STS-3c OC-3c
4 ( STM-4 ) 622.08Mbps STS-12c OC-12c
16 ( STM-16 ) 2488.32Mbps STS-48c OC-48c
64 ( STM-64 ) 9953.28Mbps STS-192c OC-192c
 
 OC-1のフレームフォーマットを下の図に示します.図のように,1フレームは125マイクロ秒(125µs)を単位として構成されています.これは,ISDN64kbpsの基本構造を満足するように構成するためです.


 図8.2.1 OC-1のフレームフォーマット 

  上図のフレーム1行分の詳細図を下に示します.ここに,セクションオーバーヘッドとは,フレーム同期,誤り監視,運用/保守などのフィールドとして使われます.

 
 図8.2.2 OC-1フレーム1行分の詳細図 

これに対してN倍の伝送容量の,OC-Ncのフレームフォーマットを下の図に示します.


 図8.2.3 OC-Ncのフレームフォーマット 

 このような多重化・分解する装置を分岐挿入装置ADM( Add/Drop Multiplexer)といいます.ADMによるOC-1,OC-3の多重化の例を図に示します.同図には,同時にSONETオーバーヘッドの適用範囲も示しておきました.


 図8.2.4 ADM装置とオーバーヘッドの適用範囲説明図 

 前節のATMについて説明しましたように,ATMであっても実際にWAN内部を伝送されているときにはSONET/SDHのサービスを受けます.SONET/SDHのADMにおける多重化と分解は見ようによって経路制御でもあります.それゆえ,ATMのようなオーバーヘッドの大きな方式でなくてもSONET/SDHを利用してルーティングできないかと考えられるようになりました.それをMPLS( Multi Protocol Label Switching )といいます.

 

3節 xDSL

 インターネットを流通する情報に音声や動画像などのいわゆるマルチメディア情報が増えるにしたがって「ブロードバンド」という言葉が目に付くようになりました.これは,主に家庭などダイアルアップ回線を使用してインターネットにアクセスする利用者にとって,64kbpsとか128kbpsというような低速の回線帯域が耐えがたいものになってきたために他なりません.このように,一般家庭等を包含する最終的な加入者線の帯域問題のことを「ラストワンマイル問題」などといってその解決策が議論されています.そういう時代背景の中で,改めて回線を敷設せず,既存の電話回線を利用して,かつ数Mbpsの帯域が利用できる(と言われている)DSL( Digital Subscriber Line )耳目を集めています

2.1 電話線の伝送特性

 言うまでもなく電話回線は,もともと電話のアナログ音声300Hzから4,000Hzを伝送するために敷設された伝送路です.したがって,これ以上の高い周波数を伝送させることは考えられていませんでした.しかし,4,000Hz以上の周波数が全く伝送できないかというとそんなこともないのです.4km先の場所における,典型的な電話線の周波数特性を下の図に示します.直流から1MHz付近までに約80dB程度の減衰があります.また,電話線は非シールド線ですから,この帯域内に自動車やネオンサインなどの市外雑音や放送波のような外来信号等の擾乱も発生します.また,電話ケーブルは,加入者から交換機に近づくにつれて束になってきますので,近接しているケーブルからの漏話(近端漏話といいます)も入ってきます.特に,近接の電話線にNTTのピンポン方式と呼ばれるISDNサービスがなされていると,その近端漏話は無視できないほどに大きくなります.


 図8.3.1 電話線の伝送特性 

2.2 DMT方式によるxDSL

 xDSLの現在の方式はDMT( Discrete Multi Tone )と呼ばれるものが標準化されています.その内,ADSLを例にとって原理図を下に示します.この図では,分かりやすくするために図8.3.1に説明したような信号の減衰は描かれていません.実際には,個々の加入者回線の減衰特性を補正するようにして,下図のようにフラットな信号レベルを実現(するように)しています.
 下の図で,まず周波数0から4kHzまでは在来のアナログ電話を伝送します.そして,ここにフィルタ(スプリッタと言う)で分波して,30kHzから138kHzまでに,周波数幅4.3kHzの多チャンネルのキャリア信号を上り回線として設定します.同様に約1MHz程度までの間を下り回線として設定します.この4.3kHzのキャリア波をキャリアトーン( Carrier Tone)と言います.
 
 


 図8.3.2 DMTの周波数帯域設定 

一つのキャリア波については,16QAMの変調を行います.これによって1キャリア波あたり64kbpsのデジタル伝送が可能となります.この例は,ADSLですが,このように上り回線と下り回線で帯域に差がつけられていますが,これはインターネットなどでは統計的に上りに対して下り回線の方がデータ量が多いことが分かっているからです.それゆえAsymmetric Digital Subscriber Lineの頭文字をとってADSLと言うのです.上りと下りを平衡に確保した場合にはSDSL( Symmetric Digital Subscriber Line),周波数帯域を1MHz以上まで使って高速化を図る場合にHDSL( High-bit-rate Digital Subscriber Line)と言います. 

xDSLの利点は,何と言ってもその工事費の高いネットワークの新規の敷設費用を要しないで,広帯域化が図られることにあります.もちろん電話やファクシミリは今までどおり使えます.したがって新たな投資はユーザ側においてxDSLモデムを用意するだけでよいことです.システム全体のイメージ図を下に示します.


 図8.3.3 xDSLからInternetへ 

 ただしここで一言注意をしておきます.NTTのISDNとxDSLは同居できません.と言いますのは,NTT方式のISDNはピンポン方式と言って2B+1Dを実現するのに,総帯域320kHzを使ってしまうのです.したがって,xDSLに廻すべき周波数資源が払底しているのです.諸外国のISDNは80kHz程度しか使わないので,DSLとの同居が可能で,そのために早くから普及していました.韓国などではISDNが普及していなかったためにDSLが先に普及し,結果として日本よりもインターネットの普及が早まったと言われています.


第4節 CATV

4.1 はじめに

 CATVは,その名のとおり放送用,特にTV再送信用のネットワークでした.しかし,インターネットの普及に伴って,これにIP接続(インターネットのTCP/IPプロトコルパケットを伝送させること)をしようとする機運が高まってきました.特に米国ではCATVの普及率が65%以上と高く,各家庭に色々のネットワークを引き込むのではなく,一種類のネットワークを接続して利用するワンネットワークアクセスという思想がコンセンサスを得ているために,比較的帯域の広いCATVを中核的ネットワークと位置付けて利用しています.これには国土が広く,あれもこれも引きこむ不経済ということも預かって大きかったかもしれません.
 そういう歴史的背景の中でIEEEは,1997年にIEEE802.14プロトコルを制定しました.これを受けて19986月には,ITU-Tは,専門家グループSG9でケーブルモデムの仕様として「J.112」を発表致しました.このAnnex(附属勧告)として北米の業界コンソーシアムであるMCNSMultimedia Cable Network System partners)が提案しているDOCSIS1.0Data Over Service Interface Specifications)が認められて,普及を図ろうとしています.その他にも,日本(NEC)やヨーロッパから独自の仕様が提案されており,いずれもAnnexとして勧告されています.したがって,現段階では未だ世界標準とかデファクトスタンダードとかいう形にまとまってきているわけではなく,異なる方式間では相互接続が不可能になっています.それでも大勢は収斂してきていますので,ここでは独自方式には触れず,DOCSIS1.0を中心に簡単に紹介しておきます.

4.2 CATVネットワーク

 CATVは,TV放送の再送信ですから,通常は放送波を広帯域アンテナスタックで受信し,独自にチャネルを設定してVHFUHF帯域の搬送波を6MHz信号波で変調して放送用ヘッドエンドから送出し同軸ケーブルで配信しています.この場合に使用される下り映像伝送周波数帯域は55MHz以上であり,最高周波数は350MHz450MHzなど様々です.近年の都市型CATVでは最高周波数が750MHz程度のものが主流になっています.その周波数の割り当てのイメージ図を下に示します.図のように30MHz以下は雑音が多く,情報伝送にはそれ以上の周波数が使われます.


     図8.4.1 CATVのチャンネル配置 

 CATV網は,媒体が同軸ケーブルですから耐雑音性は本来高いのですが,加入者宅での管理が悪く,ケーブル先端が終端されていなかったり,インピーダンスが不整合であったりして電磁雑音を受信しやすく,ネットワークの広がりにつれてそれが加算されます.電気器具や市街雑音,不法電波など人々の生活によって生ずる雑音は主として低域側にあり,こういう雑音がネットワークを介して集められますので,これを流合雑音といいます.このような流合雑音を避けるために幹線部分を光ファイバで敷設し,加入者に近いところで同軸ケーブルに変換するハイブリッドCATVが都市型CATVとして現代では主流になっています.同軸ケーブル部分には増幅器が挿入され,分波による損失を補っています.

4.3 CATVIPのプロトコル構造

 インターネットに接続されたCATVネットワーク図を下の図に示します.まず,インターネットはUNIUser Network Interface)インターフェースを介しDSUDigital Service Unit)やルーターによって終端され,CATVとの間でIP接続されます.
 この場合,クライアント端末から通信用ヘッドエンドへのデータの流れを「上り」,その逆を「下り」と言います.DOCSIS1.0では上り回線に55MHz以下の中心周波数で200KHzの整数倍で最大帯域3.2MHzを使用し,下り回線には55MHz以上の周波数で放送用に使われていない空チャネルのうち1チャネル(6MHz分)を使って双方向データ通信を行います.このように,この方式は伝送媒体は一本ですが,双方向通信が可能ですから非対称全二重方式の通信です.そして,上りはQPSKQuadrature Phase Shift Keying)または16QAMQuadrature Amplitude Modulatiom)方式のデジタル化を行って,およそ最大10Mbps(実効9Mbps)の帯域を確保しています.また,下りは64QAMまたは256QAM方式で変調して最大42Mbps(実効38.8Mbps)の帯域を得ています.このように非対称性を取っているのは,加入者のネットワーク利用は情報の出力量に対して入力量の方が多いという傾向を加味して設定したためです.


     図8.4.2 IP over CATV 

 上図のようにインターネットはCATV局のルーターで終端されます.インターネットを経由して到着したTCP/IPパケットは,DHCPDynamic Host Configuration Protocol)サーバーによってグローバルIPアドレスをローカルIPアドレスに変換され,ARPAddress Resolution Protocol)によって端末ケーブルモデムのMACMedia Access Control)アドレスを解決した上で通信用ヘッドエンドにより変調されてイーサーネットフレームとしてCATV網内に投げ込まれます.端末モデムはそのフレームのMACアドレスを解読して自分宛であれば受信し,そうでなければ無視します.こうして自分宛のイーサーネットフレームを受信したモデムは受信端末にTCPセグメントパケットを渡して通信を終えます.受信端末のTCP層は,そのパケットの転送順序確認など信頼性をチェックしてコンピュータの上位層に渡し,最終的にアプリケーション層で出力され,人間の解読できる情報として画像・音声・キャラクタなどで表示します.
 一方,情報を発信したいクライアントは,上り回線の空き状態を見計らって接続要求パッケトを通信用ヘッドエンドに対して送信します.これに対して,ヘッドエンドはミニタイムスロットを設定してクライアントに対し使用許可を通知します.クライアントはこのタイムスロットを使って網内にフレームを送信します.その宛先がインターネットであれば,ルータが受け取り,DHCPサーバーからグローバルアドレスを借用してインターネットにIPデータグラムを転送します.
接続要求パケットが出された瞬間にあいにく他者が上り回線を使用中である場合があります.この場合にはパケットの衝突が発生しますので,動作を一時中断し,回線の空くのを待ちます. 
 インターネットプロトコルのIP層から渡されたIPデータグラムは,イーサネットであるIEEE802.3のデータリンク層に渡され,PMD(Physical Media Dependent)層を介して変複調されます.図では煩瑣を避けて省略していますが,DOCSIS1.0ではデータリンク層でイーサーネットフレームの暗号化プロトコルが規約化されており,56ビット共通鍵暗号方式の米国政府暗号標準DES(Data Encryption Standard)でカプセル化しています.
 CATVIP接続サービスはこのように,下りに42Mbpsという広帯域の伝送帯域が得られることから,マルチメディアネットワークとして実に魅力的です.もちろん,このネットワークは媒体共有型ですから,多勢の人々が同時にアクセスしますと,輻輳を起こします.これで帯域が足りなくなるとすれば,それは地域の活力が著しく増している証拠ですから,そうなることがむしろ望ましいのです.
 CATVIP接続サービスの特長の第2は,これが地域のワンネットワークアクセス網として,地域全体を被っていることです.地域社会共有の基盤となっていることが地域づくりにとって極めてすぐれたリソースです.
第3に,この網は原則的に常時接続型であることです.公衆網のようにダイアルアップ接続ですと,ユーザーが接続行為を起こさないことにはインターネットに参加できません.通信相手がインターネットにログオンしているのかいないのかが他者から見て不明なのでは,コミュニケーションの取り方は限定的にならざるを得ません.その点CATVは原則的に常時接続型ですから,インターネットとしては理想的です.
 そして第4に,何と言っても安価であることが魅力です.CATVTVの再送信という目的を既に遂行しているネットワークで,本来の役割は一応満足されています.いわばIP接続サービスはCATV事業者にとっては付加サービスですから,原則的に「余禄」に属します.したがって,多くの場合料金は定額制であり,ユーザーにとっては時間を気にしないで利用できるのがうれしいことです.
 このように,良いことづくめのCATVですが,過去に敷設されたCATV網の多くは完全同軸型の単方向システムであるものが多いようです.そういう場合には,インターネットサービスを追加するためにグレードアップコストが改めて発生します.そのような場合には,学校や公共施設,プロジェクト実施地域など,確実に需要のあるところから小さく始めるなどの工夫が必要になるかもしれません.

5節 WDM

 光ファイバの価格はずいぶん安くなりましたが,先進国では労働力が高いために敷設費用が高く,結果的に使用料金が高くなります.そこで既設の光ファイバの帯域を有効に使うことによって実効的に価格を下げることが提案されました.それがWDM( Wavelength Division Multiplexing )技術です.
 下の図のように,光ファイバには1,300nm付近と1,550nm付近にそれぞれ200nm程度の波長にわたって0.2〜0.5dB/kmと伝送損失の低い部分があります.現在では,この波長帯の一波を使ってon/offによってデジタル信号を伝送しています.と言いますのは,光通信と言いながら現在の技術では光を一旦電気に変換して信号処理をしています.その光/電気変換デバイスの動作速度が数Gbpsに限定されているからに他なりません.そこで,一本の光ファイバにさまざまな波長のレーザー光線をつかって,それらを個別に光電変換することによって利用効率を高める方式をWDMというのです.この技術は,ここ一二年の間に急激に発達し,現在では数十GbpsのWDM回線が実用化されています.


 図8.5.1 光ファイバの伝送損失特性 

 WDMにおけるルーティングの問題は重要です.SONET/SDHと同様にMPLSを使って伝送していく方式などが現在盛んに研究されています.将来は光を電気に変換せずに最後まで光で伝えていく技術が完成することでしょう.


 

第6節 GbE

 Ethernetについてはすでに第7章で説明しました.しかし,近年になってギガビットイーサーネット=GbEが多用されるようになり,これが第7章のオリジナルなEthernetと若干異なるところがありますのでそれについて説明しておきます.なお,山梨大学の第四世代のネットワークはこのGbEで,2001年4月から供用開始しました.
 GbEもEthenetですから基本的にはCSMA/CD方式です.しかし,ネットワーク帯域を1000Mbps=1Gbpsとしたために10Baseや100Baseの規格そのままでは不都合が生じます.それは,処理速度が速すぎますから最低ビット数が同じ46Byteとしておきますと,ネットワークの端まで届く前にパケットの伝送が終了してしまい,衝突の検知が不可能になってしまいます.そのためにはネットワーク長を短く制限するのも一法ですが,それでは不便です.そこで仕方なく余計な搬送波をデータの後ろに512Byteつけることにしました.これを搬送波拡張(Carrier Extension)といいます.これによってネットワーク長は200m
までとすることができます.(GbEは,1000Base-Xといいますが,媒体としてはカテゴリー5のUTPケーブルを使う100Base-Xと共有しますので,せいぜい100mあれば問題はないのですが・・・)
 しかし,こうしますと折角速度を速めたのにデータ伝送に無関係なお荷物を常にくっつけておかなくてはならず不経済です.そこでもうひとつプロトコルを変えました.それはフレームバースト(Frame Bursting) といって,DTEが一度チャネルをつかんだら8192Byteまで連続してフレームを伝送することを許すのです.こうすることで無駄を統計的に軽減できます.ただし,MTU1500Byteも変更無しです.GbEが短期間に世界中に普及したのは,このように先行技術と共存しながら改善されているところが好感を持たれているためです.

 GbEには,もう一つ新たな適用の拡張がありました.それは,全二重オペレーションで,二点間で全二重通信を行うものです.これに光ファイバを使えば,最大1Gbpsの帯域でブリッジ機能によるLANの拡張ができます.山梨大学では,2003年度より,医学部と甲府キャンパス間でGbEの全二重オペレーション機能を使って遠隔授業などを行います.


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