はじめに

 現代はネットワーク時代です.政治・経済・文化・教育・生活・宗教にいたるまで,すべてがネットワーク化されています.だから,私たちがどのネットワークにも属さないで生きられるなどということは全く考えれないほどです.その中心をなしているのが情報通信ネットワークです.冷戦終結後,インターネットに代表されるように,世界中に「グローバルスタンダード」と呼ばれる世界標準化されたネットワークが,それこそアメーバのごとく,燎原の火のごとく広がっていったからです.私たちの日常生活もこのネットワークなしにはつゆ考えられないほどです.
 本講義は,「コンピュータネットワーク」となっていますが,「インターネット」を主として勉強していきます.コンピュータネットワークとインターネットは必ずしも同一のものではありません.「コンピュータネットワーク」というときには,狭義にはコンピュータサーバーとホストコンピュータの間のデータ伝送プロトコルのことであり,コンピュータ間通信全体を包含する「インターネット」ととは概念が異なるからです.しかし,「大が小をかねる」ようにインターネットは,狭義のコンピュータネットワークを含む技術です.また,コンピュータネットワークは,必ずしもグローバルスタンダードでは無いものを多く含みますが,インターネットはその主要なプロトコルとしては世界標準です.このような「広義性」と「普遍性」という意味からインターネットに習熟しておくことが大切だと考えるからに他なりません.
 ここではまず手始めに,情報通信ネットワークのおおよその概念を理解するために必須な事柄を紹介しておきます.ここでの話は,再度もっと詳細に説明されますが,そのために専門
用語の間の相違をきちんとここで整理しておく必要があります.そのためには,全体のイメージをしっかり作り上げておくようにして下さい.後々,諸君は必ずテクニカルターム(専門用語)に悩まされるはずです.テクニカルタームを自分の言葉で説明できる人のことをプロと言います。


3.回線交換とパケット交換ネットワーク

4. データ伝送手順

5. LANの種類

6. WANの種類

7. ネットワーク接続機器


 第1節 ネットワークトポロジー

 ネットワークの幾何学的形状をネットワークトポロジーといいます.一般的にネットワークには以下のようなトポロジーがあります.それぞれに一長一短がありますが,ネットワークを設計する時に,構築するネットワークの目的,経済性,発展性,構築する場所の地形や構造,利用者の組織やその将来性などを考慮しながら,最初にトポロジーの選択から始めます.
 特にデジタルネットワークでは,そのネットワークの品質として,スループット(throughput),パケット損失確率(packet loss probability),伝送遅延(transmission delay)のような量が評価の対象となりますが,これらの量に大きな影響を与えるのがトポロジーです.
 

1.1 専用線型

 子供の時に遊んだ糸電話のように,2台のDTEData Terminating Equipmentデータ端末=コンピュータを想像してよい.DTEの他に単に端末と言ったり,ホストと呼んだり,クライアントと呼んだり,その場その場で異なる呼び名を使うことがあるので注意すること)間で電気通信事業者がサービスする専用の回線を購入して情報通信をする場合専用線型(point to point)ネットワークといいます.必ずしも物理的な回線の占有を意味しないので注意が必要です.
 原則としてこの回線を設定しますと、情報が伝送されようとされまいと24時間常時接続されたままです.したがって電話などのように従量制の課金ではなく,定額制となるのが普通です.
 専用線型は原則として他者が参入してきませんので,秘話性が高く,システムの安定性も高いので,金融機関などセキュリティを重要視する場合や,インターネットのように自社のLANとISP( Internet Service Provider)間の通信として不断に情報のやり取りがなされるような場合に多く使われます.
 距離と帯域と通信品質によって価格が設定されます.遠距離間を専用線で接続しますと高額になりますので,VPN( Virtual Private Network)技術などのインターネット技術を用いる仮想的な専用線もこの範疇に入ります.
 図1.1に専用線接続の概念図を示します.
 

 
 図1.1.1 専用線 

 一口に専用線といっても,通信事業者によって様々なサービス商品が発売されていますから,その選択はネットワークの使用目的に合わせて適切になされる必要があります.まず,アナログ回線かディジタル回線か,通信帯域はいくらにするか,伝送品質はどのように設定されているかなど,選択のためのスペックは数多くあります.不適切な選択をしますと経済的に不利であったり,通信に支障を来したりしますから注意が必要です.
 ちなみに,我が国で商品化されている専用線サービスの代表的なものを列挙すると次のようになります.呼称は通信事業者によってまちまちです.
・ 高速ディジタル伝送(64kbpsから6Mbps程度までのディジタル専用線サービス)
・ アナログ伝送サービス(音声帯域または3.4kHz帯域の信号を伝送する専用線サービス)
・ 一般ディジタル伝送サービス(2.4kbps〜9.6kbps程度の低速ディジタル専用線サービス)
・ 映像伝送サービス(TV映像を伝送するための専用線サービス)
・ FDDIサービス(FDDIのLAN間を接続するディジタル専用線サービス)
・ ATM専用サービス(ATM(Asynchonous Transfer Mode:非同期転送モード)伝送方式を採用した専用サービスで,音声・データ・映像等の統合通信を,1Mbps〜135Mbps程度の帯域で伝送)

1.2 バス型ネットワーク

 下の図のように,一本のネットワークに複数のDTEを接続する場合,これをバス(Bus=共通母線)型ネットワークといいます.バス型ネットワークは,構造が単純で,多くのDTEが共同で利用できますから利用効率が高いのが特徴ですが,何らかの対策を講じないと,同時にトラフィック(交通のことだったが,通信では信号が伝送されている状態をいう)が発生したときに衝突のため通信が不能に陥ります.したがって,その対策や制限のための装置やプロトコルが複雑になります.また,DTE間を引き回しますので,端末が空間的に広く分散している場合などはネットワークの全長が長くなり逆に不経済になります.このため,バス型ネットワークはユーザが集中しているLANなどに多く使われます.10(100)Base-5,10Base-2などの名称を持つEthernet(IEEE802.3)はバス型の典型的なネットワークです.バス型ネットワークは,DTEが集中して配置してある場合には有効ですが,空間的に分散している場合には回線の引き回しが長くなりかえって不経済です.その欠点を補うために,あとで詳細に勉強しますが,Ethenetの10(100)BaseT,Giga-Bit-Ether(GbE)のように原理的にはバス型ですが,見かけ上スター型をとるネットワークもありますので注意が必要です.

 
 図1.1.2 バス型ネットワーク 

  masking効果

1.3 スター型ネットワーク

 スター型ネットワークは,中心に集線装置(concentrator)を有し,そこから放射状に広がるネットワークです.このネットワークの特長は,新規に加入者が増えても,他に影響を与えることなく接続できるその拡張性(scalability)の高さにあります.公衆網では電話回線が典型的なスター型ネットワークです.また,LANではATMネットワークなどがこれに属します.バス型と違って情報の流れが分離されていますので,処理が簡単になります.反面,この型のネットワークは,DTEが密集している場合などでは逆に総延長が長くなってしまう欠点があります.
 Etherネットの10(100)BaseTなどのように本来バス型のネットワークであるものを,(スイッチング)ハブによって見かけ上スター型の形状にしたものがありますが,あれはバス型に分類されますので注意が必要です.


 図1.1.3 スター型ネットワーク 

1.4 ループ型ネットワーク

 リング型とも言います.バス型ネットワークの始点と終点を接続してしまえばループ型ネットワークになります.したがって,特徴はバス型とほとんど同一です.しかし,あえてループ型ネットワークという時には,バス型のようにDTE間を並列に接続するのではなく,直列に接続することで信号の流れを一方向に定め,バス型のように双方向の流れをつくりません.これによって,信号の衝突が回避されます.比較的大規模なLANで多用されているFDDI,トークンパッシングリング(IEEE802.5)などがこれに属します.図のループ部分をハブで集線して,見た目にはスター型になっているループ型のネットワークもありますので注意を要します.

 
 図1.1.4 ループ型ネットワーク 

1.5 メッシュ型ネットワーク

 公衆網やWANなどのように大規模なネットワークは,上記のトポロジーすべてを組み合わせてできています.そういうネットワークをメッシュ型といいます.インターネットなどは全体としてメッシュ型のネットワークそのものです.

 
 図1.1.5 メッシュ型ネットワーク 


第2節 伝送媒体

 コンピュータネットワークに使われる伝送媒体としては,以下のようなものが主要なものです.これらの物理的な性質はすでに「電気基礎理論」で学習ずみですから,そちらをしっかり復習しておいてください.

2.1 撚り対線

 スター型,またはPoint to Point型ネットワークで使われます.これには,シールドタイプ(Shielded Twisted Pair cable STP)非シールドタイプ(Unshielded Twisted Pair cable  UTP)があります.STPは,耐雑音性に優れていますが,値段が高くなる欠点があります.UTPは,Ethernetの10BASE-TXなどにつかわれるカテゴリー3,100BASE-TXにつかわれるカテゴリー5などが代表的です.いずれも伝送損失が高いため,およそ75〜100m程度の距離に限定して使われます.UTPは値段が安いため,Ethenet以外にもカテゴリー5がスター型のATM,CDDI,GbEなどでも多く使われます.なお,STPは特性インピーダンス150Ω,UTPは100Ωです.


 

 図1. 2.1 ペアケーブル 

2.2 同軸ケーブル

 同軸ケーブルは本質的にシールドされていますから,雑音に強く,より対線などと比べると伝送損失もはるかに少ないのが特長です.ただし,UTPケーブルなどと比較すると値段が数段高いのが欠点となります.コンピュータネットワークに使われる同軸ケーブルは特性インピーダンス50Ωです.黄色い色をしているのでイエローケーブルと俗称されるEthernetの10BASE5,100BASE2として仕様が標準化され,主としてバス型ネットワークに使用されます.10BASE5では全長500m(DTE接続間隔2.55m以上),10BASE2では200m(間隔2.5m以上)の総延長で使われます.前者はトランシーバを同軸内導体に外から刺し込んで接続しますので,システムを生かしたままで増設する活線工事が出来るのが特長です.後者はT分岐を用いて接続しますので,接続部分を切断するため増設する際にはネットワークを止める必要があります.

 
 図 1.2.2 同軸ケーブル 

2.3 光ファイバ

 光ファイバには大別して,シングルモードファイバ(SMF)マルチモードファイバ(MMF)があります.前者は損失が少なく,かつモード分散が無いため,1〜10Gbpsの広帯域で,かつ50kmもの遠距離まで無中継で伝送できる利点がありますが,コアが10ミクロンと細いため接続のための高い精度が要求され,敷設工事費が高くなる欠点があります.後者は,多モードで,それぞれのモードは伝送速度が異なるために,伝送距離が伸びると信号がひずみます.これをモード分散といいますが,このために長い距離を伝送させることができません.大まかな目安としては,155Mbps以下,1km以内のネットワークではMMFを,それ以上のネットワークではSMFを使います.
 FDDIは光ファイバで作られます.その他,ATMやHIPPI,Ethernetの10BASE-F,双方向ハイブリッドCATVなども光ファイバネットワークです.  光ファイバは,ネットワーク社会を構成するキーパーツです.その技術は実に日進月歩であり,しかも日本が最も得意とする技術分野でもあります.光ファイバはその名の通り光波(といっても赤外線を使います)伝送であり,その周波数帯域は極めて広いのが特長です.そこで一本の光ファイバにさまざまな色(=波長)の光を分類して通すことによって複数の伝送路を構成することさえできます.こういうものを
波長多重(WDM=Wavelength Division Multipulex)とい
います.今世界中でその実用化に取り組んでいます.すでに,40波を超えるWDMファイバで,数百Gbpsのスーパーハイウェイネットワークが実用化されています.テラビットの超超広帯域ネットワークが出現するのも時間の問題です.
 
また,ソリトンという非線型性と分散性を打ち消しあうことで安定した超短パルスを伝送することのできるソリトン伝送光ファイバ技術なども出現して現在実用されている光ファイバの1000倍もの性能が発揮されています.ネットワーク社会は,光ファイバの技術進歩に支えられて今後無限に進展していくことが約束されています.

 
 図 1.2.3 光ファイバ 

2.4 無線

 無線は,電磁波を使うためワイヤリングが不要で,工事費がやすく出来上がります.しかし,電磁波は電波資源というくらいで国民共有の自然財産ですから,勝手に使うことは許されません.したがって,現在広く使われているワイヤレスコンピュータネットワークは,電波法の規制を受けない微弱電波によるものか,ISMと呼ばれる工業科学医療用に開放されている周波数帯に限定される場合がほとんどです.赤外線もこの範疇に入ります.山梨大学のYINS-PHSは無線LANの珍しい例に属します.  無線方式は,モバイルデジタル通信にも多用されています.その速度はせいぜい64Kbpsですが,IMT2000という21世紀の世界標準方式(CDMA方式=Code Division Multiple Access)が国際機関で標準化されました.それによればモバイルでありながら2Gbpsの高速のデジタル通信が可能となります.すでに携帯電話に導入されていますが(NTTDoCoMoのFOMAは,2001年から384kbpsで運用を開始),本格的にデジタル通信に利用されるようになりますと,モバイルマルチメディア通信も夢では無くなります.

 
 図 1.2.4 アンテナ 


第3節 回線交換とパケット交換ネットワーク

 WAN(Wide Area Network)の端末間で通信を行うためには何らかの手段によって端末間を接続する必要があります.この手段を交換(exchange)といいます.通信ネットワークの交換形態には大別して,A.回線交換型ネットワークB.パケット交換型ネットワークという2種類のネットワークがあります.これらの違いについて簡単に勉強しておきましょう.


  図1.3.1 交換方式の分類  

3.1 回線交換型通信ネットワーク(Circuit Switching Network)

 電話ネットワークがこの形態の典型的例です.電話では予め宛先の電話番号をダイアルして,送受信間に回線を設定してから会話を始めます.大昔に使われていた磁石式の電話は交換手と称する人が間にいて実際に電線の端を手で接続することで回線を設定していました.そのポンチ絵を下に示します.
 交換手が介在したため通信の秘密が守られなかったり,女性交換手にセクハラが行われたり,また交換手が企業から買収されていて,商店への注文の接続依頼があると別の競争相手につなげて商売に支障をきたすなどの弊害がアメリカではあったそうです.そこで米人ストロージャがダイアルパルスに応じてリレーを動かす自動交換機を発明しました.A型とかH型交換機がそれです.その後,クロスバー交換機や電子交換機などを経て現在ではディジタル交換機が広く普及しています.
 ディジタル交換機は,送受信者の音声をディジタル化して,そのパルスのタイムスロットを送受信者間に割り当てることをもって実効的に交換しますから,もはやスイッチの無い交換機ですが,それでも原理として回線交換であると定義されています.回線交換型の通信は回線が設定されてしまえば,あとの手順が単純化され,セキュリティに強い・遅延時間が固定されて実時間性が高いなどの利点があります.
 

 

 図
1.3.2 交換機の原理図 

 3.2 パケット交換型通信ネットワーク(Packet Switching Network)

 この講義の全体を通じて出てくる通信形態は,このパケット交換型が大勢を占めます.事実インターネットの普及に伴って,回線交換型の扱うデータ量に対してパケット交換型の扱うそれが急増し,2003年頃には逆転するであろうと予想されています.核戦争を想定して,敵の攻撃を受け情報通信ネットワークが壊滅的な状況になってもなお通信を確保するにはどうすればよいか,というテーマのもとに1964年,アメリカ国防総省(ペンタゴン)のポール・バランは,パケット交換技術を開発したといわれています.そして,これこそが後のインターネットの生みの親になりました.

 図1.3.3 パケットの構成 


 パケット(packet)とは,下の図のように情報を適当なデータサイズのかたまりにしたもののことです.郵便や宅配便の小包のように見えるところからパケットといいます.小包同様,各パケットには,宛先・送り先や誤り訂正,パケット順序IDなど,情報を確実に伝送するための制御情報がヘッダに書き込まれ,後続のペイロード(送受信されるデータの入れ物のこと)とともにパケット交換網に投げ込まれます.この構造の定義が通信プロトコルということになります.


 図1.3.4 パケットの構造 


 パケット交換にも大別して二種類あります.一つはソースルーティング型,もう一つはホップバイホップ型です.前者は,予めパケットの通過するルートをネットワーク側で決めておいて,そこを通過するように経路制御されているもので,X.25やATMのPVCと呼ばれるものがその例です.後者は,インターネットのIPで,パケットの転送順序は現場のルータにその判断が任されています.ネットワークの変化によって途中から経路が変更される可能性がありますから,一塊のデータが異なる経路を通過して到着することなども考えられます.
 受信側では,バラバラになって順不同で到着したパケットをデータが誤っていないか,宛先は間違い無いかなどを確認し,送り先を記録した上でヘッダを破棄し,パケットIDにしたがって再組み立てして受信します.


 図1.3.5 パケット通信の原理 

 電話網のような回線交換システムでは使用する回線が指定されていますから,万が一そのネットワークが破壊されますと通信は途絶します.パケット交換は,核戦争などでメッシュ型のネットワークが大規模に破壊された場合でも,生き残ったネットワークを介して通信を確保することができますから,宛先までに最低1本のネットワークさえ生き残ってくれていたら通信が確保されます.

 

 図1.3.6 被災したネットワーク 

 このように,パケット交換網は,情報に付加されているヘッダを頼りにしながら,生き残った回線を介して行き着けるところまで最大限情報を伝える努力をします.なお,パケット通信の国際規格であるX.25ではパケットのデータサイズを,128〜4096バイト,イーサーネットなどでは1500バイトとしています.これを最大転送単位MTUと言います.
 下図のように,各地から送られてきたパケットは,パケット交換機に入ってきたところで,一旦交換機のメモリーに蓄積されます.このためこういう仕組みを蓄積交換などとも言います.プロセッサーは,各パケットの宛先情報をヘッダから読んでその宛先につながる生きた回線を選択して転送します.この際,二つの交換機間では情報に誤りが無いかどうかを確認し,無ければ次の交換機にそのパケットを転送します.これをバケツリレー式に続ける仕組をパケット交換といいます.ここに使われるデータリンク層のプロトコルがHDLC(Highlevel Data Link Control)で,X.25として世界標準に規定されています.
 パケット交換は,このようにソフトウェアで交換機能を実行していますので,信頼性を高めることが可能です.また,回線の空き状態に応じて伝送しますから,ネットワーク効率が高くなります.VAN(付加価値通信)や回線リセーラー,インターネットサービスプロバイダーISPなどは,パケット通信のこの仕組みを利用して,回線業者から買った回線を効率化することで付加価値を生み出している業種です.
 このようにパケット交換システムは,回線効率が高いかわりに音声や動画のような等時性を要求するメディアには不向きです.また,ソフトウェアで交換していますので速度の限界が生じます.そこで,誤り訂正などを簡素化して,実効的な伝送スピードを高めるようにした簡易なパケット通信をフレームリレーといいます.フレームリレーは,ネットワークが光ファイバ化されるなかで,あまり高度な誤り訂正などの仕組みを必要としなくなった時代の通信方式だということができます.また,ATMは,こういうパケット交換の欠点を補って,交換機能をソフトウェアではなくハードウェアで実行するようにしたものです.
 我が国では,NTTが1980年「DDX-P」の商品名で,また1990年「INSネット64・1500」の商品名でそのD(データ)チャネルで公衆サービスを開始しました.
 
 ところで,インターネットもIPデータグラムと呼ばれるパケットをやりとりするパケット通信です.IPは処理を簡略化して多種多様なネットワークに適応するように公開性(オ−プン化)の高いネットワークプロトコルです.そのかわり,IPデータグラムの伝送ではペイロード中のデータの正誤については一切頓着しません.ただ,転送するだけの仕組みです.こういうやり方をベストエフォート(最善努力)方式といいます.インターネットのIP伝送はまことに好い加減な?やり方を採ることで普及を図りました.データの正確さはすべてそれより一段上の階層TCP層で実現します.つまり,信頼性をネットワークには依存しないで,通信する両DTE間で確立するのですが,こういう方式をエンド・ツー・エンド通信とも言います.


第4節 データ伝送手順

 DTE間のデータ伝送手順(後にこれをプロトコル(特にデータリンク層プロトコルと言い直します.この種のプロトコルを学ぶのがこの学科目の主題です)の種類は,無数といってもいいほどに沢山あります.そのうち代表的なものだけを列挙しますと,

無手順方式

ポーリング/セレクティング方式

CSMA/CD方式

トークンパッシングリング方式

トークンパッシングバス方式

などがあります.これらは,第7章にでてくるデータリンク層のプロトコルによって制御されるものですので,詳細はそちらに譲り,ここではその原理的仕組みだけを下に紹介しておきます.

4.1 無手順方式

 変な名前の方式です.その名のとおり「手順を決めないで通信する」ということを取り決めた方式です.パソコン通信などに多用されています.ネットワークを伝送されてきたデータをその時間的順序にしたがってそのまま受信するものです.1対1の通信経路が予め出来上がっていること,誤り訂正機能などを持ちませんから雑音などが無い理想的な情報通信環境になっていること,などがこの方式採用の前提です.実は電話や公衆FAXなどもこの無手順方式に属します.また,多くの場合コンピュータとモデムの間などは無手順方式になっています.

4.2 ポーリング/セレクティング方式

 この方式は,1964年アメリカのIBM社によって開発された同期型データ伝送制御手順BSC(Binary Synchronous Communications.ベーシック制御手順),またはBi-Syncと呼ばれる手順をもとに開発されました.大型コンピュータとその下に組み込まれたダム端末(自らは情報処理機能を持たないノンインテリジェントなスレーブ端末)という組み合わせに適用された方式です.しかし,端末がPCのようにインテリジェント化して主機に従属しなくなりますと,この方式は使われなくなります.しかし,歴史的には画期的な方式でありました.
 下図のように,バス型のネットワークでは接続されているDTEが一斉に情報発信を試みようとしますと
衝突(Collision)が起こり,データ交換は不能に陥ります.それを避けるためにネットワーク内に制御局を設置し,残りのすべてを従属局とします.
 この場合,データ交換は制御局を介してのみ実行し,従属局同士でのデータ伝送を許さない方式
(セントライズド方式)と,送信データを有する従属局は制御局から発信権をもらって所望の宛先従属局に直接データを送る方式(ノンセントライズド方式)とがあります.

1. 制御局が,一つの従属局にデータを伝送するときにはセレクティングによってその従属局を指定し,それが受信可能であれば肯定応答 ( acknowledgement ) を返し,それによって制御局はデータを送ります.


 図1.4.1 セレクティング動作 

2. 制御局が送るべきデータを持たないときには,制御局は従属局一つ一つに順次規則的に伝送すべきデータが有るか否かを問いかけます.これをポーリング ( polling ) といいます.

 
 図1.4.2 ポーリング動作 

3. 従属局の中に,他の従属局に送りたいデータが有るときには2.のポーリングに応えて肯定応答します.
 セントライズド方式
では,制御局は自分が応答可能であれば肯定応答を出して従属局データを受け取り,1.のセレクティングによって所望の従属局にデータを転送します.
 ノンセントライズド方式
では,従属局Aが同じ従属局であるBに向けてデータを送りたいときに,制御局のセレクティングを待つのではなく,制御局に対してポーリング動作によって送信要求を出します.これを受けた制御局は従属局Bにポーリングし,Bの受信可能の肯定応答を受けた時点で,Aにデータ送信を促します.つまりセントライズ方式のように座して待つのではなく,発信要求を出すことで通信に積極的にかかわれる方式です.

 いずれにせよポーリングセレクティング方式では,制御局が絶対的な権限を持って管理しますから,通信が確実に実行されます.そのかわり制御局のポーリングに時間を空費する欠点があります.そこで,誰でも送信データが有るものは随時制御局になり,宛先従属局にポーリングして,その肯定応答を見て送信する方式があります.これをコンテンション方式といいます.それを改良したのがHDLC(High level Data Link Control)方式であり,LANではCSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)です.

 
 図1.4.3 HDLC方式 

 4.3 CSMA/CD方式

 ポーリング/セレクティング方式は,大型計算機とその端末計算機などのように,本質的に主従関係が前提されているようなシステムではごく自然です.しかし,分散システムで主従関係など最初から存在しないような場合に,制御局などという特権的な局を設定するのはどうも民主的でないように思われます.しかし,バス型ネットワークに接続されているすべてのDTEを対等な存在として,だれも交通整理をしないとなると,当然衝突が発生します.そういう状況下でコミュニティを安全に成立させるためには皆が自律的に協力しなくてはなりません.
 そのために,まず全DTEは常に回線を監視し,回線中にデータが伝送されているか否かを調べます.これをCarrier Sensingといいます.ここにCarrierとは,回線中を伝送している電気信号のことです.
 ネットワーク中に他のデータが送られていないことを確認すると,発信要求を持つDTEはデータを送出します.ここまでの方式をCSMA(Carrier Sense Multiple Access )といいます.もちろんcarrierがsensingされればそれが消えるまで待機します.carrierが消えた後でもすぐに送信動作に入るのではなく,一定の待機時間を取ります.これは,伝送路に遅延時間がありますから,ネットワーク全体がcarrierの消滅を知るのに時間差があるためです.その待機時間についてもつぎのように方式が決められています.

・ 直ちに送信.
・ 個々のDTEがそれぞれ乱数を引いてそれに従って待機時間を設定して送信に入る.
・ 個々に決められた時間必ず待って送信する.
などです.
 しかし,CSMA方式でデータを送出したにもかかわらず,他のDTEがデータ発信をする場合が考えられます.それは,伝送路が長いため,発信時にはキャリアが確かに無かったのですが,発信を開始したころ他の発したキャリアが受信されたという場合です.こういう時のために,自分がデータを発信しているあいだ中,自分と同一のデータだけがネットワークの中にあることを確認することで衝突の有無を調べるのです ( Collision Detection ) .もし,自分が発しているデータと異なるものを受信したらそれは他人がキャリアを出しているに違いありません.そういう場合には直ちに発信を停止します.こういう方式をCSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)方式といいます.
 こうして,不幸にして衝突が起こりますと,一定時間待って再送を試みます.この待ち時間にも次のようにいくつかの方式があります.
・ 乱数によって待ち時間を決定する.
・ あらかじめ各DTEに固定待ち合わせ時間を割り付けておく.
・ 衝突の回数が増えると乱数の最低値を大きくする.
などの方法によって調整します.
 それでも続けて一定回数以上衝突が発生するようだと送信を完全に停止してしまうようになっています.Ethernet,IEEE802.3などがCSMA/CDの例です.

4.4 トークンパッシングリング方式

 その名のとおり,リング型のネットワークで使われる伝送手順です.下図のように通常は,ネットワーク内をトークンと呼ばれる回覧版(実際には,1と0の信号の組み合わせでできたパケットです.詳細は「第7章3節FDDI」参照)のようなものが一方向に回転しています.トークンは発信権であり,一つのループに一つしか発行されず,これを持っているものだけがデータを発信する権利を有しますしたがって,発信データを有するDTEはトークンを捕まえ,宛先を書いてデータを発信します.トークンを捉え損なったらもう一周回ってくるのを待ちます.


 図1.4.5 トークンリング 

 トークンをつかまえて送信権を獲得したDTE−Aは,宛先DTE‐Bのアドレスを書き込み,データを添付してパケットを構成し,それを送信します.宛先局DTE−Bは,受信したことを示すサインと受信データの全文をコピーしてリング型ネットワークに返します.先の送信したDTE−Aは,そのコピーを見て間違いが無いことを確認すると,ようやくトークンを手放して送信権を放棄します. このように送信すべきデータを持つものがトークンを担保してデータ送信権を独占することで,混乱を回避します.こういうやり方を優先トークン予約方式といいます.この方式は4Mbpsで使用されます.
 このやりかたは実にスマートですが欠点もあります.トークンを使うDTEが一台だけで回線全部を占有してしまいますから不経済です.この欠点を改良したのがアーリートークンリリース(Early Token Release)方式です.これは,トークンを捕まえてデータ送信権を獲得したDTEがデータを送ると,一定時間後自動的にトークンを手放します.送られたデータの相手先の確認等は優先トークン方式と同一です.トークンはこうしてすぐにネットワーク上に現れますから,送信権を欲しいDTEはこれをすぐに捕まえてデータを送信できます.こうしてネットワーク上に同時にいくつものデータが伝送されることを許すのです.これは米国IBM社によって16Mbpsの高速のLANとして開発され,後にIEEE802.5として標準化されました.


 図1.4.6 アーリートークンとアペンドトークン 

 しかし,アーリートークンリリースは,トークンを手放すのに一定時間をおきましたので,これが損失になります.そこで,データを転送したらそのデータの末尾にトークンをくっつけて送るようにして,間を取ることを止めるようにしたのがアペンドトークン(Append Token)方式といい,これがANSIによってFDDI方式として標準化されました.FDDIは100Mbpsの高速なLANです.

4.5 トークンパッシングバス方式

 トークンによって送信権を得てデータを送出するということにおいてトークンパッシングリング方式と同じですが,トークンバス方式はその名のとおりバス型ネットワークに適用します.バス型ネットワークではトークンを発しますとすべての局に届いてしまいます.そこでトークンの中に受け取るべき順序を指定しておいて,その指示に従ってトークンを回覧するようにしたのがトークンパッシングバスです.つまり,物理的な距離関係ではなく,論理的な回転順序を設定することでトークンリング方式をバス型ネットワークに拡張して適用したというわけです.この方式で作られたネットワークがMAP(Manufacturing Automation Protocol)です.MAPは,アメリカの自動車メーカーGM社(General Motors)によって1982年に開発された,生産工場のネットワークプロトコルです.

 
 図1.4.7 トークンバス方式 


第5節 LANの種類

前節の伝送手順に従って,LANの中で広く使われている種類を列挙すると以下のようになります.なお,これらのプロトコルについては第7章で詳述します.

5.1 Ethernet

 EthernetはアメリカXerox社のRobert Metcalfeによって発明され,Xerox社・DEC(現Compac)社,それにIntel社で実用化されたLAN方式です.後にIEEE802.3(厳密にはEthernetとIEEE802.3とは細部が若干相違する)として世界標準プロトコルになりました.一本の回線に複数のDTEが接続されるバス型ネットワークですので,原則として信号の衝突が発生する,典型的なCSMA/CD方式に属します.

 開発の当初Ethernetは,10BASE−5(太さ10ミリのイエローケーブルと呼称される黄色い特性インピーダンス50オームの同軸ケーブルで接続される)だけでした.その後にこのプロトコルをIEEE802.3として拡張が図られました.10BASE−2(イエローケーブルより細い3Dタイプの50オーム同軸ケーブル),10BASE-F,10BASE-T/100BASE-TXなどはIEEE802.3の中で規格化されたものですが,これらも一般にはEthernetとして扱われています.10BASE−5,10BASE−2はいずれも同軸ケーブルで,見た目の形状もバス型です.10BASE-Fは光ファイバ,10BASE-Tや100BASE-TX(IEEE802.3u)は4線式の撚り対線を使い,ハブと呼ばれる集線装置を介してDTEと接続しますので,見た目にはスター型ネットワークになっています.比較的小規模のLANに向くことから,現在最も多用されている方式です.最近になって,これらをはるかに超える帯域を持つ1000Base(IEEE802.3z/IEEE802.3ab)が実用化されています.これをギガビットイーサー(GbE)といいます.2001年4月より,山梨大学の構内LANの主役はGbEです.

  表1.5.1 Ethernetの距離制限値 

10Base-5

10Base-2

10Base-T

100Base-TX

500m

185m

100m

100m

 ところでEtherとは,エーテルのことです.と言っても,エチルエーテルとかメチルエーテルとかいうあれではありません.その昔,科学者はこの宇宙はエーテルという普遍的な物質で満たされていると信じていました.そういうものは存在しないことを示したのがアインシュタインですから,20世紀の最初の10年までエーテルは立派に人々の意識の中に存在していたのです.Etherネットは,宇宙の果てまで情報を伝える媒体という意味をこめて,このエーテルに因んで命名されたネットワークです.

5.2 FDDI(Fiber Distributed Data Interface)

 IBM社のアーリートークンパッシングリング方式を改良したアペンドトークン型LANです.MMF(マルチモード)型の光ファイバを使用します.これを同軸ケーブル(coaxial cable)で構成したものをCDDIといいます.比較的大規模なLANに使われますので,数年前までは大学などのキャンパスLANでは主要な方式でした.山梨大学のYINSはこれを5ループ持っていますが,現在は一部を除いて現役を退いています.
 FDDIは,100Mbpsの高速のLANです.総延長は200km500台までのDTEが接続できることになっています.回線は回転方向が左右の2系統をもち,もし一方が破壊した場合でも直ちに逆周りのバックアップ回線が動作する仕組になっています.
 FDDIとよく似たIEEE802.5がありますが,これは16Mbpsのアーリートークンリリース型のLANです.

5.3 ATM(Asynchronous Transfer Mode)

 次節でみるWANでは,データ伝送はほとんどがSTM(Synchronous Transfer Mode)です(STMについては次章参照).STMに対してATM(Asynchronous Transfer Mode)方式という伝送方式があります.データをすべて48バイトに分解し,これらに5バイトのヘッダを付加してパケットに似た53バイトセルを構成します.ヘッダには宛先などが書いてあるのはもちろんですが,ATM-LANではネットワークの切換え個所にATMスイッチと呼ばれる交換機があって,ヘッダの宛先を読んでVCI(Virtual Channel Identifier)と呼ばれるスイッチング情報によってハードウェアスイッチを切換え,ハード的にセルを目的地に転送していきます.こうして,ATMスイッチを介してスター型のネットワークを形成する方式をATM-LANといいます.
 ATMの特徴は,データの交換にハードウェアスイッチが使われているためソフトウェアによって交換する通常のLANのルータなどに比べて速度が速いことです.すでに一線は退いたものの山梨大学のキャンパスネットワークスーパーYINSは622Mbpsという高速をATMで実現していて,バックアップ回線として保守されています.この方式は将来のB-ISDNの中核的方式になるといわれてもいます.現在,ATM ForumというコンソーシアムがATMの標準化作業を進めています.

5.4 PPP(Point-to-Point Protocol)

 PPPは公衆回線を使ってIPデータグラム,Apple Talkなど多種類のパケットを伝送することのできるデータリンク層のマルチプロトコル対応のプロトコルです.したがって,公衆回線からインターネットに接続するにはこのプロトコルを使うのが一般的です.また,公衆回線を使ってLANを延長するためのブリッジとしても使うことができます.
 PPPによく似たプロトコルにSLIP(Serial Line Internet Protocol)がありますが,これはIPデータグラムだけを伝送します.それに対してPPPはマルチプロトコル対応で,IPデータグラム以外のパケットも伝送できます.
 現在市販のPCやUNIXマシンはOSの中にPPPを標準で装備しています. 

5.5 MAP(Manufacturing Automation Protocol)/TAP(Technical & Office Protocol)

 アメリカの自動車メーカーGM社が開発した主に工場のオートメーション用のLANです.同軸ケーブルを使った帯域伝送型のトークンパッシングバス型の大規模なLANです.MAPの一部を使うミニMAPが広く生産現場で使われています.

5.6 CATV-LAN(Cable TV)

 文字どおりCATV網をLANに使うCSMA/CD型の帯域伝送型LANです.双方向ですが,アナログTV1チャネル(6MHz)当たり,上り2Mbps,下り30Mbpsと非対称(不平衡という)ネットワークです.光ファイバを媒体とするハイブリッドCATVで実現されます.IEEE802.14というプロトコルが世界標準となっています.


第6節 WANの種類 

 公衆網を用いた広範囲のネットワークをWAN( Wide Area Network )といいます.主要なものを挙げると次のようになります.

  • 電話網

  • 専用線

  • ISDNとB-ISDN

  • OCN

  • xDSLサービス

  • 6.1 電話網

     電話網については,日常的に使われていてもはや説明は不要と思われます.我が国では電話加入数は,6,000万台,その他に携帯電話やPHS,ページャなどが61,611,000台あります(2000年9月現在).このように膨大な数の端末を持つネットワークですから,ネットワークは下の図のようにスター型の階層構造になっています.加入者がいる階層が市内端局,市内局は市街との接続のために集中局に接続され,それらのいくつかが中心局に集められ,またそれらをまとめて東京と大阪の2個所の統括局に集約しています.
     市内交換局から加入者までは,現在2本線の対線が1回線使われています.1回線に双方向の信号を流していますので,こういう方式を全2重といいます.
     電話網は,周波数300〜3,400Hzの帯域のアナログ回線です.したがって,これを用いてコンピュータネットワークを形成するためには,コンピュータのディジタル信号をアナログ回線に適応するように変・復調しなければなりません.その装置がModem(Modulation-Demodulation)です.
     電話網を介してコンピュータネットワークに接続することをダイアルアップといい,そのとき多く用いられるプロトコルがPPPPoint to Point Protocol)です.


     図1.6.1 PSTNネットワークのハイアラーキー 

    6.2 専用線

     専用線とは,第1種通信業事業者の所有する回線を借り受けて,原則として個人の使用に供する回線のことです.大別して,アナログ回線とディジタル回線があります.アナログ回線および128kbpsまでの専用線のことを帯域品目といいこれは通常の銅線で提供されますが,それ以上の速度のディジタル回線は光ファイバで提供されます.速度は,192kbps,1.5Mbps,6Mbps,…さまざまです.
     これらの回線を借り受けて,新たに通信業者の標準サービス以外のサービスを付加してリセールをする事業を付加価値通信VAN(Value Added Network)といいます.流通業などを中心に発達しています.特に最近ではパソコン通信やインターネットサービスを行うVAN業者が増えています.これらをインターネットサービスプロバイダ(ISP)などと呼んでいます.

    6.3 ISDNとB-ISDN

     ISDN( Integrated Services for Digital Network )とは,公衆網が電話網,電信(電報)網,FAX網,TELEX網などというようにサービス品目ごとに個別に作られて,非能率化してしまったアナログネットワークをディジタル化によってサービスを統合化しようとするところから出来上がりました.日本では,NTTがINSの商品名でINS-ネット64,ネット1500の名称でサービスしています.ネット64は加入者線の銅線(対線)で,ネット1500は光ファイバでアクセスします.
     ネット64では,「2B+1D」といってBの64kbpsが2回線,Dの16kbpsが1回線使用できます.同様にネット1500は,24Bの1.5Mbpsのディジタル回線となります.
     B-ISDN( Broadband ISDN)は,WANをISDNで統合的に構築しようとする概念です.そこでは,ATMを中核的通信方式として採用しようという動きがある一方で様々な方式提案がなされていて,21世紀初頭の10年間はその大競争の時代になるかもしれません.

    6.4 OCN

     B-ISDNのさきがけとして,NTTは1996年OCN( Open Computer Network )を発売しました.バックボーンネットワークを東京と大阪間に敷設し,両端はATM( Asynchronous Transfer Mode )交換機とし,その先にルータを配置して,TCP/IPプロトコルでパケット転送をするインターネットとまったく同じ仕組みのサービスネットワークです.つまり,究極的なエンド・エンドパケット型通信サービスです.今後の発展が興味深い公衆サービスの一つです.
     なお,近年ではNTT以外の通信事業者(NCC=New Common Carrier )も同種サービスを商品化しています.TTNet(東京通信ネットワーク)のTTCNなどがその例です.

    6.5 xDSLサービス

     ここ一年ほど,インターネットのブロードバンドサービスとしてxDSLがちょっとした話題にのぼっています.DSLは Digital Subscriber Lineの略称です.xにはA( Asymmetric ),S( Symmetric ),H( High-Bit-Rate ),等々様々な方式が開発され,実用化されています.特に広く普及しているのがADSLです.これらは,電話網という基盤設備を利用してブロードバンドサービスが付加的に行えるという点で魅力的なシステムです.


     図1.6.2 電話線の伝送特性の概念図 

     xDSLは原則として既存の電話回線を使います.すでに見てきたように電話回線は約4kHz迄のアナログ通信として使われています.しかし,数kmの比較的近距離であればもっと高い周波数まで伝送できます.そこで,既存の電話回線としてはそのまま使用することにして,まずローパスフィルタで電話回線を確保します.そうしておいてから,バンドパスフィルタとハイパスフィルタによって30kHz以上1MHz程度までの周波数帯域を適当に二分して,それぞれの帯域内を4.3kHzずつに小分割し,それらに16QAMの変調をしてデジタルデータを送信します.このときの帯域の取り方に,上りと下りとで非平衡(上り30〜138kHz,下り約200kHz〜約1Mhz)に定め,特に上りを狭く,下りを広く取った方式をADSLといいます.上りが狭いのは,インターネットなどではデータのダウンロードが多く,アップロードの送信データ量はそれに比べて少ないからです.
     この場合に,上下の帯域を均等に取った方式をSDSL,1MHzより高い周波数帯域まで使用して高速性を強調した方式をHDSLといいます.


     図1.6.3 ADSLの周波数帯域(4.3kHz幅に64kbpsのデジタル信号がのる) 

     ADSLは,アメリカや韓国・台湾などで急激に普及しました.日本ではピンポン方式のISDNが普及していて,これがアナログ周波数帯域を広く使っているためにxDSLに割愛できる周波数帯域が少なく,そのために普及が遅れました.xDSLの契約者はISDN契約を破棄して再契約する必要がありその煩雑さのためにも普及が阻まれています.
     ADSLでは,公称下りで1.5Mbps〜6Mbps程度の帯域が得られるといわれています.ただし,放送波の影響や自動車などが発するイグニッション雑音等々の市街雑音や,近隣のISDN加入線からの近端漏話などの影響のために,スループットがケースバイケースに異なるなどカタログ性能では全く不明な要素が入ってきますので導入にあたっては注意が必要です.


    第7節 ネットワーク接続機器

    LANに使われるネットワーク機器にのみ限定してみておきます.


     図1.7.1 ネットワーク接続機器とOSI参照プロトコルの関係 

    7.1 リピータ(Repeater)

     Ethernetを延長するために用いる装置です.波形が歪むために10BASE-5は500m,10BASE-2は200mを超えてパケットを伝送することが許されません.そこでリピータは,この制限を超えるために,波形を電気的に整形してネットワークを透過的に延長するために用いられます.
     リピータとしては,物理的に波形整形機能だけを有するもの(ビットリピータ)と,パケットとして認識した上で,メモリーに蓄積し,パケットとして再構成した上で再送する機能を持つもの(バッファードリピータ)とがあります.前者は,2台まで延長できる仕様を有しています.後者は,段数に制限はありません.このようにリピータは,OSI参照プロトコルで言うところの物理層のネットワーク機器です.ハブ(hub)と呼ばれる集線装置はリピータに属します(ただし,スイッチングハブは,つぎに上げるブリッジに属します.)


     図1.7.2 リピータ 

    7.2 ブリッジ(Bridge)

     リピータは,バッファードリピータのように信号をパケットとして認識するものであっても,透過的に転送することに変わりはありません.これに対しブリッジは,パケット内のハードウェア(MAC)アドレスを見て,転送するか否かを決定します.また,まちがったハードウェアアドレスのパケットなどは通過させません.その意味で不要なデータ伝送を阻止するパケットフィルタ機能を有しています.OSI参照プロトコルでいえば,データリンク層のネットワーク機器です.スイッチングハブと呼ばれる装置は,集線装置ですが,ハードウェアアドレスを見てフレームを転送しますのでブリッジに属します.


     図1.7.3 ブリッジ 
    (MACアドレスをみて転送するので赤いヘッダのパケットは通過できない)

    7.3 ルータ(Router)

     OSI参照プロトコルのネットワーク層でIPアドレスをみてデータグラムを転送するための経路制御装置(パケット交換機)をルータといいます.上のリピータやブリッジは必ずしも無くてもよいのですが,ルータは無いとLAN間接続は不可能です.インターネットの普及の,実際の立役者はルータです.ルータは,データグラムを転送する宛先ネットワークのプロトコルに合わせてルーティングをしますから,プロトコルフィルタであるということができます.ルータが扱うプロトコルが一つである場合,シングルプロトコルルータ,複数のプロトコルをサービスしている場合マルチプロトコルルータといいます.
     ルータは転送するパケットを一旦自分のバッファーメモリーに蓄積し,宛先を見て適切な出口(インターフェース)から再送信します.したがって,ここに処理できない程の大量のパケットが押し寄せてくると機能不全を起します.そういう事態を輻輳(congestion)と言います.最悪の場合にはパケットを廃棄してしまいます.
     
    ルータについては,ネットワーク層のプロトコルで詳しく紹介します.

     
     図1.7.4 ルータの図 

    7.4 ゲートウェイ(Gateway)

     OSI参照プロトコルのアプリケーション層までも含むネットワーク機器のことをゲートウェイといいます. しかし,ルータのこともゲートウェイと言ったりしますので注意が必要です.これはルータの中には,本来の役割であるIP層までの機能を超えて,より高次の機能を有しているものがあり,それは立派にゲートウェイと呼んでいいのですが,ついでに基本機能だけのルータもそう呼ぶように混乱してしまったためです.


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