第6章 放射波

 

 

 

1.一般電磁界の積分解

 電磁界源を磁荷ρmと磁流Jmまで拡大してマックスウェルの方程式を書きますと,次のようになります.

   (1)

また,電流・磁流の連続則は,

   (2)

のように表わされます.

(1)から,

   (3)

が得られます.

ここで,Strattonの定理を導入します.二つのベクトル関数は,体積Vおよびそれを囲む閉曲面S上で1次,2次偏微分可能であるとしますと,次のような関係式が成立します.

   (4)

ここに,Vは閉局面Sによって囲まれた空間であり,は閉局面Sから垂直に外向きに延びた法線ベクトルを表します.

ところで,いま次のようなスカラー関数φを導入します.

   (5)

このφは,もともと次の方程式の解でした.すなわち,

   (6)

ここに,

であって,(x,y,z)を源点(source point),(x',y',z')を観測点(observer’s point)と言います.

1 Strattonの定理の成立する閉局面

 ところで,上の定理に,

          (7)

と置いて,Maxwellの方程式を代入してみましょう.ただしここにaは定数ベクトルです.定数ベクトルとは,微分すると0になるベクトルのことです.

式(7)より,

  (8)

また,

   (9)

 よって,式(4)左辺は,

   (10)

この右辺第二項にガウスの定理を適用すると,結局,

   (11)

同様に,式(4)の右辺についても計算しておこう.

   (12)

   (13)

ゆえに,

となりますが,この右辺第2項にヴェクトルガウスの法則を適用しますと,

よって,

    (14)

(11)と(14)を等しいとして,

   (15)

を得ます.

 さて,こうして得られた式(15)は,もともとStrattonの定理から導いてきたものです.そこでは,被積分関数はVまたはS上で2次微分可能であることが要請されておりました.しかるに,被積分関数内にφという関数を含んでいるために,r=0となるとき被積分関数は確定値を取ることができず定理そのものを満足できなくなります.

図2  波源と観測点と閉曲面

そこで上の図のように,点(x',y',z')を中心とする半径r1の極めて小さな球をとり,これを体積Vから括り取ることにします.こうしますと,体積空間は4πr13だけ小さくなり逆に面積は4πr12だけ増加することになります.r1が極めて小さい極限を考えますと,体積の減少分は,面積の増加分に較べて小さくなり,それを無視することができます.そして,こうして切り取った体積と面上では,もはや被積分関数の発散は回避されますからStrattonの定理に抵触することはありません.ただそのかわり,面積がSからS1だけ増加します.

 ゆえに,式(14)は上図に対しては,

   (16)

と置き換えることができる.しかるに,S1表面上では上式最終項の面積分は近似計算ができて,

   (17)

となります.ただし,0は上図の小円の内向きベクトルであって,

の関係にありますから,上式最終項のS上の面積分は計算できて,

となります.

上式第2項目は,

とすることができますから,これを上の式に代入しますと,

→0の極限を求めて,

これを式(16)に代入しますと,最終的に次式を得ます.

 

   (17)

まったく同様にして磁界についても求めると,次の式を得ます.

  (18)

上の二つの式は,完全に双対関係になっていることが分かります.これら二つの式には電磁気学に関する全ての事象が含まれているという点で極めて有益な数式です.すなわち,閉じた閉曲面があってその中に電磁界源があり,それらを取囲む局面上の電磁界が境界条件として与えられていれば,空間内の任意の点の電磁界は上の二つの式によって与えられるというものです.

 

2.放射電磁界のポテンシャル表現

上に得られた方程式(17)と(18)をポテンシャル場で表してみましょう.

まず,∇を変数(x,y,z)に関する微分です.これに対して,∇′は(x′,y′,z′)に関する微分であるとしますと,図2から二つの∇演算の間には,

   (19)

のような対称の関係があります.

ところで,式(17)や(18)をみますと,∇はφにしかかかっていません.そして積分変数は(x,y,z)に関する積分です.このことから,

これらの関係を式(16),(17)に適用します.その際,次のようなポテンシャル関数を定義しておきます.

   (20)

 この式(20)を式(17)と(18)に代入します.すると次の式を得ます.

 

   (21a)

      (21b)

ここに,,φ,およびφをそれぞれ電気的ベクトルポテンシャル,磁気的ベクトルポテンシャル,電気的スカラーポテンシャル,および磁気的スカラーポテンシャルと呼びます.そしてこれらのポテンシャル関数の間には次のような結びつきがあります.

   (22)

そこで,今,

        (23)

のような,ベクトル関数を定義することにしますと,式(20)は次のように表示することが可能です.

    (24)

式(20)やこれは,一般電磁界を微分系で表現した解ということです.

ここで,ΠΠはそれぞれ電気的ヘルツベクトル(electric Herz vector),および磁気的ヘルツベクトル(magnetic Herz vector)呼びます.

簡単のため無損失媒質を想定してσ=0として,式(21)に式(20)を代入しますと,ヘルツベクトルは次式のようにも表されます.

   (25)

つまり,式(25)によってヘルツベクトルを求め,これを式(24)に代入することで電磁界を計算することが可能となります.


1.遠方放射電磁界

前節式(24)によって,一般電磁界は与えられましたが,これは図2に示す閉空間内で定式化されたもので,必ずしも実際の状況に合致するものではありません.現実の問題では,図3のように放射源は開放された空間内にあって,その周辺に不連続な領域(反射壁のような散乱体)があるような場合が一般的です.そこで,図2の閉曲面Sを無限遠に遠ざけるのと同時に,新たに散乱媒体を模擬した閉曲面S1を加えて問題を設定しなおすことにします.


図3 閉曲面の変更

まず,式(25)の面積分を上の図3に適用するのですが,その場合式(25)の面積分はS=S1+S2となりますが,S2を無限遠に遠ざけることによってS2の寄与は無視することができるはずです(これを「放射条件(radiation condition)といいます).そこで事実上S= S1として扱うことにし,その正しさは得られた一般解がそれを満たしていることで正しいとすることにします.

2で定義した二つの点(x,y,z)と(x,y,z’)をそれぞれPx,y,z’),Qx,y,z)と名づけ,それらを図示しますと下の図4のようになります.

 


図4 点QとPの関係

三次元Green関数φを上の座標関係に合わせて表示しましょう.上図から,Rやξやγの間には,

なる関係がありますので,

    (26

となります.とは,R→∞とともに消失することを意味します.

式(26)を式(25)に代入しますと,

 (27

となりますが,これを式(24)に代入してx’,y’,z’について微分をするについては,Rだけがその対象になりますので,それを除いた次のベクトル関数を定義しておきましょう.これは,後に分かりますが,放射電磁界の方向性,すなわちアンテナの指向性を表す関数であります.

   (28

この式を,式(27)に代入しますと,Herzベクトルは,

    (29

となります.

式(29)を式(24)に代入します.11はx’,y’,z’とは無縁なので,∇’の影響を受けませんので,たとえば,

ただし,ここに0は図4に示すR方向の単位ベクトルで,これは波動の進行方向を表しています.

ゆえに,

また,

となります.Πについても全く同じですから,これらを式(24)に代入しますと,最終的にによって表される電磁界として次式が得られます.

   (30

ただし,ここにとは,

   (31

であり,Z0は自由空間の特性インピーダンスであり,120π[Ω]であります.

式(30)から,波源から十分に遠い距離ではそれぞれの式の第二項は消失しますので,電界と磁界は直交しており,波動の進行方向とも直交していること,そしてのような広がりを波が示していること,それゆえには指向性を表していることなどが分かります.

以上で,遠方の放射電磁界の一般解は求められましたが,これを求めるについての仮定,すなわち,図3の閉曲面S2が遠方に去ったとき,その閉曲面上での電磁界も消失するという「放射条件」を,得られた式が満足していることを確認しておく必要があります.そこで,S2→∞の状況で,

   (32

となり,間違いなく閉曲面S2上で電磁界の消失することが証明されました.

 

2.電気的ダイポールからの放射電磁界

5のように,正負一組の電荷+qと−qなる双極対があるとします.これを電気的ダイポール(電気的双極子)といいます.この正負の電荷が角周波数ωで時間的に振動しているようなモデルを想定します.これは,角周波数ωの波動の波長に比べて,長さが無視できるほど短い微小な線状のアンテナを模擬したモデルに相当します.それゆえこれを微小ダイポールアンテナなどと言います.ただし,ここでは簡単のために,電流を流すための導線のようなものは無く,+qと−qの間に変位電流が流れているものと仮定します.この仮定は,式(27)の積分において右辺第二項の面積分を無視したいためです.


図5 ダイポールアンテナ

ところで,ダイポールの電流と電荷の間には,

  

なる関係がありますから,

となります.これを,式(27)に代入して,

    (33

ただし,大変荒っぽい近似ですが,ここでダイポールの長さlが極めて短いとして,上図のRとrとには差が無いとして,ξに関する積分を無視しています.

また,ここにはダイポールモーメントといい,=qなる関係で定義されています.

また,このモデルでは磁流は存在していませんから,Πmについては0としてよいので,式(33)を式(24)に代入して電磁界を求めることができます.細かな計算は省略して,その結果だけを書きますと,次式のようになります.

34

これが,電気的微小ダイポールによる放射電磁界です.

これらを,球面座標の各成分ごとに分解して表示しますと,以下のようになります.

   (35

このように,放射電磁界には,

1.        距離に反比例して減衰する成分波,

2.        距離の二乗に反比例して減衰する成分波,

3.        距離の三乗に反比例して減衰する成分波

が存在しています.

ここに1.は遠くまで到達できる波動なのでこれを放射波(Radiation Field)と言います.また,2.のような成分は,準定常状態で生ずる誘導電磁界(Induction Field)です.準定常というのは,Maxwellの法則で変位電流による項を無視したときに得られる界と同一のものです.これは,距離の2乗に反比例して消滅します.

最後に3.の電磁界ですが,これは時間的変動を全く無視したときに得られる界で,静的電気双極子が発生する静的電磁界(Static Field)です.この例は,電気双極子ですから,静的磁界は発生しませんので,Hφはこれを含みません.

また,上式からR》1の場所での放射波成分だけを書き出すと,

   (36

となりますが,この二つの式の組み合わせを見ますと,電界成分と磁界成分は直交しながら,かつ進行方向であるR方向にも直行し,かつ,それら三者のベクトル関係は電界Eから磁界Hに右ねじを回転させると,そのねじの進行方向に相当する方向に進行方向Rが対応する,すなわち平面波となっていることが分かります.このように,アンテナから放射された電波は,球面状に放射されますから球面波ですが,アンテナから遠く離れた場所でこれらを見ますと,大きな球面のために事実上平面波のように見えるのです.これは,私たちが地球上に住んでいて,普段は,大地のことを平べったい平野と見ているのと同じです.平面波=Plane Waveなる概念とは,実はこういうものだったのです.

 

3.磁気的ダイポールからの放射電磁界

前節では,電気的微小ダイポールからの放射場を計算しました.これと全く対称的なモデルが磁気的微小ダイポールということになります.ところが,電磁気学では単一磁荷は存在しないとしています.つまり,電荷のように正負それぞれの電気的性質を有する粒子の存在を借定しないのです.しかし,第1節では磁荷なる概念を借定して計算をしてきました.したがって,計算上はそれを使えばよいのです.その計算結果は前節第4節の計算を電界と磁界を逆にしてやればよいだけですから,細かい計算は省略して結果だけ書けば次式のようになります.

   (37

電磁気学が,単一磁荷の存在を認めない理由は磁束密度の連続性を認める立場からです.しかし,それは磁荷の存在を認めないのではなくて,単一磁荷の存在を認めないだけです.正負磁荷を併せたものは有ってもいいのです.そして,正負一組のペアとは,極小の電流ループがそれに相当します.それならば,そこから磁界が発生し,それでいて磁荷は借定しなくて済むからです.

以上のことから,下図のような高周波の微小ループ電流を考え,それが放射する電磁界を求めてみましょう.それが,上式(37)に一致すれば,上の観念が正しいことになりますので.


図6 微小なループ電流

上図のモデルを式(25)に代入します.ただし,ここでは,電流以外にはありませんので,生ずるヘルツベクトルとしては電気的ヘルツベクトルしかありません.その結果は,次のようになります.

   (38

ここで,体積積分は,均一なループ電流がI[]ですので,断面積方向の積分を終えたとして,ループCに沿う線積分だけに限定するものとしています.

ベクトル積分の変換公式によれば,

があります.また,∇‘=−∇なる関係が有りますので,

   (39

を得ます.

ところで,ループCは,十分に小さく,波長に比べて無視できるほどであるとします.すると,上の最後の積分は簡略化されて,

   (40

ここに,Aは上図ループ電流の面積です.これを式(38)に代入しますと,

これを,式(24)に代入します.∇・∇×=0,また,Πm0から,

これらを計算しますと,最終的に,次式を得ます.

   (41

この式をみますと,これは式(24)に

 

 

 

   

を代入したものと全く同一です.ということは,還元すれば,微小電気的ダイポールとこの微小ループ電流はこれを微小磁気ダイポールと看做すことが可能であるということになります.つまり,図6は,下図7のように磁気ダイポールで置き換えてもよいこととなります.

7 等価磁気ダイポール