第3章 正弦電磁波
今までのところでは,電磁界の時間に関わる変化として一般的な扱いをしてきました.こういう扱いを常にすることは至って煩瑣です.そこで,以後特に必要でない場合を除いて全ての時間に関わる変化を時間因子exp(jωt)で表わすことにします.この表現は,全ての時間的変化が,単一の角周波数ωの正弦的変化であるということを仮定していることになります.
しかし,世の中に単一の周波数の信号などというものはありません.それでは情報は全く送れないからです.それでも,これで一般性が損われることはありません.それは,仮に時間的変化がもっと複雑なものであってもそれらを周波数領域で見た場合にはωを媒介変数とするωに関する集合と看做すことができますから,単一の角周波数ωをもって解析した結果を最初のωの集合(これをしばしばスペクトラムと言います.)の規則によって積分してやればよいからです.
電磁界が時間に関して一般的な形f(t)で表わされるとします.この関数が,t=cからt=c+2lの間の時間2lを周期として反復される周期関数であるとします.すなわち,
です.このような場合には,
のようにFourier級数展開ができます.ただし,ここに,
です.
また,lが無限に長いときには,Fourier変換によって次のように表わされます.
ただし,
式(2),(4)に示されるように,単一角周波数ωとして問題を解き,その後に式(2),(4)に依拠して時間に関する全体的な関数関係を求めれば,たとえ時間的に複雑な系についても解を求めることができます.このような理由で,ここでは時間因子としてexp(jωt)を用いることにします.
時間因子をexp(jωt)と定めたときのMaxwellの方程式は,
となります.また,真空中ですから,ガウスの法則は,
です.
これらを直角座標における座標軸成分に分けてみましょう.
および,
となります.
図 1 平面波の伝播方向
ここで,いま過度の一般性を避けるために,波動が伝播する時の伝播軸を含む平面をx,y平面としてみましょう.そうしますと,すべての現象はz軸とは無縁になりますので,
とすることができます.これを上式に適用しますと,
これらの各式を詳細に眺めてみますと,(Ex,Ey,Hz)と(Hx,Hy,Ez)の二つの組合せからなることが分ります.そこでこれらの組合せのそれぞれに名前を,
(Ex,Ey,Hz);H波またはTE(Transverse
Electric Wave)波, (Hx,Hy,Ez);E波またはTM(Transverse
Magnetic Wave)波・・・のように名付けることにします.このように波動が,独立な組に分離されることをモード分離(mode separation)と言います.
後の議論はどちらの波動でも同じことですから,ここではTE波をモデルに選んで解析を進めて行くことにします.
これらから,Ex,Eyを消去しますと,
のような方程式を得ることができます.これを波動方程式(wave equation)と言います.
式(6)を解くには変数分離法が有効です.そこで,式(6)の解を次のように仮定します.
Hz(x,y)=X(x)Y(y) (7)
これを式(6)に代入しますと,
となります.この両辺をXYで割りますと,
となります.第1項目はxの,第2項目はyの関数であり,第3項目は定数です.例えば第1項目がxに関して変化するのであれば第2項目や第3項目も変化しなければなりませんが,xの変化に対してyのみの関数や定数が変化するということはありませんので,結局第1項目も第2項目も定数でなければなりません.すなわち,ξやηを定数として,
とならなければなりません.よって,
を解として得ます.ゆえに式(6)の一般解は,
となります.
また,ξやηについては次の関係が成立します.
式(9)のように得られた解はどういうことを意味しているのでしょうか.その一つ
exp(+jξx)を例に取って調べてみましょう.
この項にはejωtが付随しています.そこでej(ωt+ξx)の形でみてみましょう.指数関数の肩は,位相を表わしていますが,その時空間における変化は,
ωt+ξx=const.
という方程式から得られます.すなわち時空間座標中の一点constという場所の運動方程式ですが,それはこれを微分することによって,
ωdt+ξdx=0
となり,したがって,
すなわち,ej(ωt+ξx)なる関数は,時間の経過と共にx軸の負方向に向かって速度ω/ξで進行する波動を表わしていることになります.同様にej(ωt-ξx)は同じ速度でx軸の正方向に進行する波を表わしていますし,ej(ωt+ηy)やej(ωt-ηt)等はそれぞれ速さω/ηでy軸方向の負又は正の方向に進行する波を表わしています.
そこで,前図のように伝播する波があれば,これは次のように表わされることになります.
ただし,ここで,
ξ=k0sinθ, η=k0cosθ
は式(10)を満足するように与えてあります.
こうして得られた磁界成分から他の電磁界成分を求めておきましょう.そのために式(11)を式(5)に代入しますと,
を得ます.そして,電界,磁界の様子を描いたものが下図のようになるものと想像されます.
・
・・0
・
ここまでは,直角座標を用いて正弦波動を表現してきました.直角座標は,私たちには大層馴染みですが,しかしこれは特別なものではなくて11個のの中の一つに過ぎません.真空中の波動関数であっても,それを記述する座標系が違えばまるで違う数学的表現をしなければなりません.
平面波の形からして,これを表現するには直角座標が最も相応しいものです.しかし,考えている領域に丸いものや楕円形のもの,あるいは双曲面などを有するものがあるときには,それらに適合した座標系を使う方が理に叶っているということがしばしばあります.図のような円柱座標で表現されたMaxwellの方程式はつぎのようになります.
ρ成分
1 ・Ez ・E
− =−jωμ0H
ρ ・φ ・z (1)
1 ・Hz ・H
− =jωε0E
ρ ・φ ・z
φ成分
・E ・Ez
− =−jωμ0H
・z ・ρ (2)
・H ・Hz
− =jωε0E
・z ・ρ
z成分
1 ・(ρE ) ・E
{ − }=−jωμ0Hz
ρ ・ρ ・φ (3)
1 ・(ρH ) ・H
{ − }=−jωε0Ez
ρ ・ρ ・φ
いま,
Ez=0
(4)
Hz=0
の二つのケースを仮定してみましょう.こう仮定しても特に一般性を傷つけるわけではありません.式(4)第1式をTEモード,第2式をTMモードと仮に名付けることにします.
TEモード
・E
=jωμ0H
・z
1 ・Hz ・H
− =jωε0E
ρ ・φ ・z
・E
=−jωμ0H
・z (5)
・H ・Hz
− =jωε0E
・z ・ρ
1 ・(ρE ) ・E
{ − }=−jωμ0Hz
ρ ・ρ ・φ
1 ・(ρH ) ・H
{ − }=0
ρ ・ρ ・φ
ここで,
・
=-jζ
(6)
・z
と置くことにし,上式第1式を4式に,また第3式を2式に代入して,E ,E を求めると,
jωμ0 1
・Hz
E =
ζ2−k02
ρ ・φ
-jωμ0
・Hz (7)
E =
ζ2−k02
・ρ
これを式(5)第5式び代入して整理すれば,
・2Hz
1 ・Hz 1 ・2Hz
+ + +(k02−ζ2)Hz=0 (8)
・ρ2 ρ
・ρ ρ2 ・φ2
となります.
TMモード
同様にして,TMモードについても見ておきましょう.式(5)でHz=0と置けば,
1 ・Ez ・E
− =−jωμ0H
ρ ・φ ・z
・H
− =jωε0E
・z
・E ・Ez
− =−jωμ0H
・z ・ρ (9)
・H
=jωε0E
・z
1 ・(ρE ) ・E
{ − }=0
ρ ・ρ ・φ
1 ・(ρH ) ・H
{ − }=−jωε0Ez
ρ ・ρ ・φ
ゆえに,
-jωε0
1 ・Ez
H =
ζ2−k02
ρ ・φ
jωε0 ・Ez (10)
H =
ζ2−k02
・ρ
これらを式(9)最後の式に代入して,
・2Ez
1 ・Ez 1 ・2Ez
+ + +(k02−ζ2)Ez=0 (11)
・ρ2 ρ
・ρ ρ2 ・φ2
となります.
ヘルムホルツ方程式の一般解
式(8),(11)は形式的には全く同じ方程式です.そこで,これらの満足すべき一般解を求めておきましょう.
一般解として,R(ρ)Φ(φ)と置きますと,
・2R Φ ・R R ・2Φ
Φ + + +(k02−ζ2)RΦ=0 (12)
・ρ2 ρ
・ρ ρ2 ・φ2
となります.そこでこの式の両辺をRΦ/ρで割りますと,
ρ2 ・2R ρ ・R 1 ・2Φ
+ + +(k02−ζ2)ρ2=0
(13)
R ・ρ2 R
・ρ Φ ・φ2
となって,左辺第3項目だけは,φだけの関数であり,それ以外のすべての項はφには無関係なものばかりで,それゆえφにとっては定数です.それゆえ,この項を除くすべての項を一括して定数−m2と置くことにします.すなわち,
・2Φ
=−m2Φ (14)
・φ2
式(14)を式(13)に代入して,両辺をρ2で割って,
・2R 1 ・R m
+ + (k02−ζ2)− R=0 (15)
・ρ2 ρ
・ρ ρ2
を得ます.
式(14)は,単純な二階微分方程式ですし,また,式(15)はよく知られたベッセルの微分方程式ですから,式(8),(11)などのヘルムホルツの微分方程式の一般解は形式的に与えられます.すなわち,
Ez
={AJm(ξρ)+BNm(ξρ)}(Ccosmφ+Dsinmφ)e-jζz (16)
Hz
となります.ところで,ここにmは0,1,2,3‥‥とすることができますから,結局,
Ez
= {AmJm(ξρ)+BmNm(ξρ)}(Cmcosmφ+Dmsinmφ)
Hz m=0 e-jζmz (17)
もまた解として選ぶことができます.係数Am,Bm,Cm,Dmなどは,与えられた境界条件によって決めることができます.
平面波の円筒波表示
一般的に円柱座標中で波動方程式は,式(17)のように表わされることが分りました.
それでは,平面波なども円柱座標変数を用いて表現できるはずです.もちろん,平面波のような平板的な波を円柱座標のような曲線座標で表わすのは巧いやり方とは言えません.しかし,境界が円柱壁である場合などではその壁に合せた円柱座標を持ちいいなければ境界条件の適用は不可能ですから,平面波を円柱座標で表わすことには相当な意味があるのです.
いま図のように,円筒波の波源が遥か彼方の(ρp,φp,zp)の場所にあるとしましょう.ρp》1ですから,これが有限のρに近づく頃にはこの波は平面波になっています.この波の波動関数をEzとしますと,これが満足すべき方程式は,
・2Ez
1 ・Ez 1 ・2Ez ・2Ez
+ + + +k02Ez
・ρ2 ρ
・ρ ρ2 ・φ2 ・z2
δ(ρ-ρp)δ(φ-φp)δ(z-zp)
=− (18)
ρ
となります.
いま,δ(z-zp)についてFourier変換を適用しますと,
δ(z-zp)=
e−jζzpdζ
となることは既に紹介しています.
つぎに,δ(φ-φp)は変数が2πの周期関数ですから,Fourier展開によって表わすことができます.
∞
δ(φ-φp)= (Cmcosmφ+Dmsinmφ)
m=0
そこでこれの両辺にcosnφをかけてかつ両辺を0〜2πまで積分しますと,
2π
δ(φ-φp)cosnφdφ= (Cmcosmφ+Dmsinmφ)cosnφdφ
0
π (m≠0)
=Cm
2π (m=0)
=cosmφp
また,これの両辺にsinnφをかけてかつ両辺を0〜2πまで積分しますと,
2π
δ(φ-φp)sinnφdφ=
(Cmcosmφ+Dmsinmφ)sinnφdφ
0
=Dmπ
=sinmφp
となります.ゆえに,
1
C0=
2π
cosmφp
Cm=
π
sinmφp
Dm=
π
よって,
∞
1
δ(φ-φp)= (2mcosmφpcosmφ+sinmφpsinmφ)
2π
m=0
ただし,
1 (m=0)
2m=
2 (m≠0)
そこで,Ezについて
∞
1
Ez= Rm(ρ)(2mcosmφpcosmφ+sinmφpsinmφ)e−jζzpdζ
2π
m=0
としましょう.これを