第2章 平面波 


(revised on 99/12/10


1.波動を表わす方程式

2.波動方程式の解

3.平面電磁波

4.偏波


1.波動を表わす方程式

 ところで,Maxwellは,なぜこのような方程式に至ったのかということは先に変位電流の導入というところで述べました.しかし,彼はもっと単純なところから仮説を立てていたようです.
 それは,アンペールの方程式に変位電流の項を加えることによって方程式の対称性が著しくよくなって,謂わば電界と磁束密度がきちっと納まるべきところに納っているという感じになります.といっても前章式(1),(2)を見る限り−符合が付いていたり,1/c2があったりして必ずしも式は対称になっているようには見えません.しかし,次のように見ていけば電界や磁束密度の対称性は一目瞭然となります.
 いま,前章式(1)の両辺に▽×を作用します.

また同様に,前章式(2)の両辺にも▽×を作用しますと,

となります.
 いま,本当の真空状態,つまり電流も流れないような真空を考えますと,=0となりますから上の二つの式より,

   (1)

   (2)

なる式を得ますが,これらの式は二つとも全く同一の微分方程式で書き表されております.そして,こう書かれた微分方程式は一般に波動方程式(wave equation)とよばれ,これらの方程式の解は波の振舞をすることが早くから知られていました.電界や磁束密度が波の振舞をするということは,電界や磁束は波であるということ,しかも二つの方程式が同じということは二つの速度が同一であるということ,しかも両者はMaxwellの方程式に従って関連づけられていますから,両者とも結び合わされて波になっているということを表わすと考えることができます.こうして電磁界方程式はきれいに対称性を有していることが分かります.そして,Maxwellはこういう対称性こそあるべき姿だと考えて,変位電流という概念を導入したらしいのです.
 こうしてMaxwellの方程式が提唱されると,当然電磁波動という概念が生れてきます.彼にしたがって,これを一瞥しておきましょう.
 問題を簡単にするために,ここでは真空中で,したがって電流が存在しない場合を考えましょう.そうすると電磁界方程式は上の式(1)および(2)より次のようになります.たとえば式(2)を例に採りますと,

   (3)

です.同様に

   (4)

をも得ます.
 ここで▽2の意味を解説しておきましょう.通常▽2という記号はラプラシアンと読み,▽・▽の意味に使います.そうであれば▽はスカラー関数に作用する微分変数ですから,ベクトルに作用されている上の方程式では演算の仕方が分かりません.これにはちょっとした意味が隠されていると考えなければなりません.
 答えは当たり前で,ベクトル関数をとしたとき,

2=▽▽・−▽×▽×

なる関係がそもそもの初めであったわけですから,▽2はこのように演算をしなければならないのです.それにしても紛らわしい記号を使ったものです.しかし,これには訳もあるのです.▽2はベクトル演算子ですから,直角座標についての成分毎に整理をしますと,

のようになります.こういうわけでこと直角座標に関しては式(3),(4)等は簡単に,たとえば,

のように置くことが出来るものですからこういう記号を敢えて用いる習慣が出来たのです.しかし,それゆえにここからしばしば勘違いが発生して大きなミスを犯すことがあります.次にその注意を述べておきましょう.
 上述のような訳で,ベクトル▽2もスカラーの▽2も直角座標でいう限りよく似たものとなっておりました.そこでついつい調子に乗って円筒座標でこれを,

と置くことにして,▽2は円筒座標のラプラシアン

を用いたとします.これは全くの間違いです.こういうように直角座標以外ではまるで意味を成しませんので,注意をしなければなりません.

2.波動方程式の解

 ところで一般に,

    (5)

のような方程式は波動方程式(Wave equation)と呼ばれています.特に一般性を損なうことはありませんので,問題を一次元に限定して考えていくことにします.そこで,

と仮定してみましょう.すなわち,

を得ます.この方程式の解は,次のような変数を導入することによって簡単に解くことが出来ます.
  ξ=x−ct
こうしますと,

ゆえに,

φ=f(x−ct)

なる解が得られることになります.
 全く同様にして,

φ=F(x+ct)

も解であることが簡単に確かめられます.
 こうして,上の波動方程式の解は,

φ=f(x−ct)+F(x+ct)   (6)

のように独立な二つの解の線形結合として表わされます.言うまでもなく,fやFは任意の関数を表わし,その形を特定することはこの段階ではできません.
 それでは,式(6)は何を意味しているのでしょうか.f(x-ct),F(x+ct)の形を図示してみましょう.

1

 上の図から明らかなように,f(x-ct)は時間の経過と共にxの正方向に伝わる「波」を表わしており,F(x+ct)は時間の経過と共にx軸の負方向に伝わる「波」を表わしていることが分ります.ここで波と呼んだのはこういう方程式で表わされるものを波と呼ぶ慣習があるからに過ぎません.ここでは電磁界に関して扱っていますから,これは電磁波に関係した波であろうと想像されます.そこで電磁波としては具体的にどのような性質があるのかつぎに調べてみようと思います.

3.平面電磁波

 もう一度真空中のMaxwellの方程式に戻りましょう.Maxwellの方程式を直角座標で成分に分解して表示してみましょう.

ここで,

としますと,上の方程式は,

 これらの方程式を子細に眺めてみますとそれぞれ○と△を付けた2組の組合せに分離できることが分ります.このように電磁界成分の組が分れることをもモード分離(mode separation)といいます.ここでは,○を付けたモードについてみてみましょう.
 二つの式から

   (8)

を得ます.この式は既に上で調べた波動方程式ですから一般解は,

y=f(x−ct)+F(x+ct)   (9)

のように表わされます.ここにcは

であって,この値を求めますと約3×108m/sとなって光速と一致します.
 式(9)を式(7)に代入してみます.

これを積分しますと,

z=cμ0[F(x+ct)−f(x−ct)]   (10)

を得ることができます.
 こうして,式(9),(10)を電磁界の1組とする波動が電磁波を構成していることが分ります.このようなモードの電磁波を平面波(plane wave)と言うことがあります.

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 この平面波の特徴は,まず第一に,

=0, E=0

のように波が伝播する方向の電磁界成分(ここではx方向)を持たないこと,第二に,伝播方向は電界から磁界の向きに向けて右ネジを回転したときその進む方向に一致しているということ,第三に,式(10)と(9)の比を取ってみますと,


となることなどが分ります.この値を真空中の波動インピーダンス(wave impedance)とか真性インピーダンス(intrnsic impedance)などということがあります.
 このように電磁界が進行方向の成分を持たず,かつ両者が直角に交わっているような電磁界をTEM波(横電磁界波Transverse Electric Magnetic wave)と言うことがあります.

4.偏波

 平面波は,電界と磁界が直交しかつ電界から磁界に向って右ネジを回したときにネジの進む方向に伝搬することが分りました.
 下図のようにxy平面内に電界があって,そのx成分とy成分とに分けられる場合を見てみましょう.

   (1)

つまり,Exに対してEyはφだけ遅れているというわけです.
 上式から,Ex,Eyの間の関係を求めてみます.

これを変形して,

   (2)

なる関係を得ます.これは楕円の方程式ですが,これを理解するために特別の場合を調べてみましょう.
(1)φ=0の場合
 この場合には,式(1)は,

   (3)

これを図示したものが前ページの直線偏波の図形です.すなわち,電界成分はxy平面内の45゜に軌跡を持つベクトルとして伸び縮みしながらz軸方向に伝搬して行きます.こういうものを直線偏波(linear polarization)と言います.
 直線偏波の軸が地球表面に対して垂直になっているとき垂直偏波,平行なとき水平偏波と言うことがあります.我が国では中波放送は垂直偏波,一般に都市部のTVやFM放送は水平偏波を利用しています.垂直偏波と水平偏波とは相互に無干渉になりますので,周波数が近くて混信の恐れのあるような場合には相互に偏波を違えることによって混信を防ぐことができます.山間部などでTVアンテナが縦に設置されているのを見ることがありますが,あれはこのような理由によります.
(2)φ=±90゜の場合
 式(1)より,

   (4)

であり,これは円の方程式になっています.こういう場合これを円偏波(circular polarization)と言います.
 特にφ=+90゜の時にはEy成分が90゜遅れていますから,時間の経過と共に電界の合成ベクトルは右ネジ関係になってz軸方向に伝搬します.こういうとき,これを左旋性円偏波(left handed circular polarization)といいます.
 反対にφ=−90゜の時には,左ネジ関係になって伝搬しますから,こういうときこれを右旋性円偏波(rigt handed circular polarization)と言います.
 こういう右とか左とかいう表現は,何を基準にするかによって違います.今は,z軸の正方向,つまり波の進行方向を基準にして右ネジ・左ネジを言いました.しかし,z軸の負方向を基準にすれば左右は全く逆転します.光学や物理学ではしばしばこちらを基準にすることがあります.そういう場合には右旋性は左旋性に左旋性は右旋性に読み変えなければいけません.
(3)一般的なφの場合
 この場合には式(1)から分るように,電界のベクトルの軌跡は楕円を形作りますから,こういう偏波を楕円偏波(elliptic polarization)といいます.

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 それでは,偏波はどうすれば制御できるのでしょうか.それには色々の方法がありますが,原理的には図のようにすればよいことが分ります.
 いま,仮に同じ場所に線状アンテナを直交して配置します.垂直方向のアンテナだけがある場合には垂直偏波の直線偏波が実現できます.また,水平方向のアンテナだけが励振されていれば水平偏波の直線偏波が実現できます.そして両者を同じ位相で励振すれば,45゜の傾きを持つ直線偏波が実現できます.このときどちらかを90゜違う位相で励振すれば,円偏波になります.

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