第1章 電磁方程式
(Revised on 99/12/10
)
1.Maxwellの方程式
2.物理的意味
1.Maxwellの方程式
- 電磁気学によれば,真空中でのMaxwellの方程式は次のように表されています.
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
- 式(1)はファラデーの電磁誘導の法則,式(2)はアンペールの法則,式(3)は電荷保存の法則と呼ばれています.また,式(4)の2つの式は,それぞれ電界及び磁界に関するガウスの法則を,式(5)は構成方程式を表わしています.ここに,Eは電界,Bは磁束密度,Dは電束密度,iは電流密度を表わします.μ0は真空の透磁率を,またcは光速で,それぞれ次のような数値を持っています.
μ0=4π×10-7 (6)
c≒3×108 (7)
- さて,これらの式を解釈するには,次の二つの数学的な知識が有効です.その第一はストークスの定理であり,もう一つはガウスの定理です.
- これら二つの数学的ツールを使って,上記のMaxwellの方程式の意味を解釈してみましょう.
- まず,式(1)の両辺に
を演算してみましょう.
- ただし,最後の置き換えでは,
(10)
- として磁束を定義しています.よって,次の関係が得られます.
(11)
- この式の意味するところはこうです.まず,左辺は,閉曲線Cに沿って電界の周回積分をしていますから,閉曲線Cの任意の場所でCに沿って一周したときの電位差を意味しています.右辺は,閉曲線Cによって生ずる面Sを貫通する磁束Φの時間微分に負の符号を付けています.一般に,物理法則を式に表わしたときには,左辺に原因が,右辺に結果が書き表わされるのが通例ですから,それにしたがって読めば,磁束の時間的変化を打消すように閉曲線Cに沿って電圧が生ずることをこの方程式は表わしています.
- つぎに,同様に式(2)にストークスの定理を適用してみましょう.すると,
- となります.すなわち,
(12)
- これより,上述のように右辺第1項目の変位電流と第2項目の伝導電流の何れもが閉曲線に囲まれた面内を貫通して流れているようなときには,閉曲線に沿って磁界が生ずることを示しています.
2.物理的意味
- 最初に述べたように,電磁気学は物理学ですから,その法則はいきなり上のような「数式」から始ったのではありません.これらはいずれも,それぞれの方程式に名前を列ねている人達を初めとする多くの先人達の先見的な実験によって見つけられた法則に他なりません.それらがどういうものであったかをここで簡単に振返っておきましょう.
-
- アンペールの法則によれば,電流の流れている近傍には磁束の発生することが知られています.それでは逆に磁束の存在する空間に導体を持ってくると,導体中に電流が発生するでしょうか.ニュートン力学には作用・反作用の法則があります.これは,質点に作用がなされると,作用された質点は必ず作用と同じ反作用を生ずるということを述べています.導体に電流を流すと,磁束が生ずるということは,逆に磁束の存在する空間に導体を設置するとそこに電流が流れることが,作用・反作用の法則に叶うことのように思われます.こう考えた多くの人々は,その立証の為の実験を試みました.しかし,こういうことは起こりませんでした.
- ファラデーも同じ動機から実験を致しましましたが,やはり成功しませんでした.その代わり,閉じた導体コイルに貫通している磁束が時間的に変動するようなとき,コイルに電流が誘起されることを発見しました.そして,ファラデーは次のような事実をここで見出しています.
- 1.誘起される電流は,コイルを貫通して時間的に変動する磁束の時間変化率に比例する.
- 2.印加される磁束が増大するときには,誘起される電流は,これによって生ずる磁束が増大する磁束を減ずるように生ずる.逆に磁束が減少するようなときには,誘起される電流はそれによって生ずる磁束が,減少する磁束を補うように生ずる.
- 3.このような事実は,導体コイルの有る/無しには関係ない.コイルが有るときにはそこに流れる電流として観測できるが,コイルが無ければそこには電界の形で起電力が生じているのである.
- ファラデーの優れた洞察を式に表わしたものが前節の式(1)に他なりません.こういう定式化はレンツによってなされましたので,式(1)のことをレンツの法則などということがあります.
[アンペールの法則]
- つぎに式(2)の発見の端緒を説明致しましょう.式(2)は第一項目を除いてみればこれはアンペールの法則です.アンペールは,電流によって生じた磁界を,電流を取巻く閉曲線に沿って線積分したとき,その結果は閉曲線によって囲まれた面を貫通する全電流に等しいとしています.
- ところで,他方例えば,キャパシタと直列に接続された直流電源にスイッチを投入すると,一時的ではあるが電流が流れます.キャパシタは理論的には絶縁物でできていますから,もし電流が伝導電流しかないとすればここに電流が流れるのは理に叶ったことではありません.しかし,実際試してみれば電流が流れます.電流が流れないものという意味の絶縁物中を電流が流れるということは,諸君は回路理論で過渡現象として知っていますが,そういうことを知らない人に取っては大変不思議なことですし,説明もつきません.これを「それは単なる過渡現象だよ」と言って済ましてしまうのではなく,論理的に考えることが必要です.
図1 Cを含む回路の過渡現象
- いま図のような直流回路の過渡電流を求めてみましょう.スイッチSを閉じた時刻をt=0として,この後の電流の変化を調べるのです.この時の回路方程式は,
- 両辺をtで微分して,
(1)
- となります.
- よって,
- が一般解であり,初期条件としてt=0においてI=E/Rとおけば,
(2)
- が過渡電流になります.実際実験をしてみれば容易に確かめることができます.
- ところで,このときキャパシタに蓄積される電荷を求めてみましょう.そこでキャパシタの電圧の時間変化を求めてみますと,
- Q=CVなる公式を用いて,
- となります.これを電流を時間tで微分してみましょう.
- となり,電流と電荷の間には,
(3)
- なる関係のあることが分かります.
- ところで,電流は電線を通して流れ込んできたものですが,別の言い方をすればキャパシタの一方の電極,例えば上の正の電極に注目して,これを閉曲面で包んでしまいますと,この閉曲面を貫通して流れ込んできた全電流とみなすことができます.よって,
- と表現することができます.第2番目の式は,ガウスの定理を使って置き換えをしておきました.
- 同様に,Qは閉曲面内部の全電荷量ですから,
- とすることができます.
- これらの式を上の方程式に代入すると,結局
(4)
- となり,閉曲面を貫通して流れ出す電流(流れ入る電流)があれば,曲面内部の電荷の時間的減少(時間的増加)が生ずることを意味します.これは電荷の保存則と名づけられています.
- 式(4)の右辺のρにガウスの法則を適用してみましょう.そうすると,
- となって,これより
(5)
- を得ることができます.こう書いたとき,この方程式は連続の方程式であり,とりわけd/dt=0,すなわち静的な場合には電流連続の方程式でありました.そしてそれと異なるのはこれがここでは新たに加わっているだけです.
- ところで,物理的な方程式では一つの式で加減される二つ以上の量は,すべて単位が同一でなければなりません.たとえば1項目がメートルの単位なら第2項目もメートルであるというように.そういうことで言えば上式(9)の第1項目は電流密度ですから第2項目も電流密度でなければなりません.第1項目は伝導電流でしたが,第2項目は電界の時間的変化によるものですので,これを変位電流(displacement
current)とMaxwellは呼ぶことに致しました.こうして,キャパシタを含む回路に於ける交流電流は必ずしも伝導電流に限らず変位電流を加えた総合的な電流で考える限り,常に電流連続の法則が成立しているとしてよいことになりました.
- そしてこの総合的な電流はまたアンペールの法則によって磁界を作るとすれば,
- とすることができるわけです.これをMaxwellの仮説と言います.
- また,式の展開の途中で出てきた式,
(6)
- は,閉曲面を貫通して出て行く電流があれば,それは閉曲面で囲まれた領域内部にあった電荷の減少の反映であるということを意味しています.この意味でこの式は電荷の保存を表わしていると云うことが出来ます.このように一般に,
(10)
- というとき,これを物質保存の法則と言います.流れに川を,物質に水を適用してみればイメージが湧いてくるでしょう.