9.電気回路(その二)

 

 

 

 

9.1.簡単な電気回路の例

 ここでは,有名な電気回路のいくつかを例題としながら紹介しておきましょう.

9.1.1.直列共振回路

 図のようなR,L,Cの直列回路を考えます.このような回路は,特定な周波数において最大の電流が共鳴的に流れるため,電気工学や通信工学では極めて重要な回路です.

1 直列回路

 ここに周波数f,実効電圧Vの交流電源を接続したとき,回路に流れる電流を求めてみましょう.

 まず,回路方程式は,

   (eq. 1)

のようになります.これに記号法を適用しますと,上式は,

   (eq. 2)

となります.ゆえに,

となります.ここに,

   (eq. 3)

のように書き表したとき,このZのことをこの回路のインピーダンス(impedance)といいます.インピーダンスとは,impede(‥‥妨げる,邪魔する)の名詞形で,回路電流の流れにくさを表わす物理量と理解したらよいでしょう.すなわち,インピーダンスとは,交流回路においてもオームの法則と同形の

=Z   (eq. 4)

で回路方程式を表したときの比例係数のことです.

 式(3)は,R,L,C直列回路のインピーダンスですが,これの特徴を調べてみましょう.式(3)は,

であり,角周波数ωが,

   (eq. 5)

なる関係を満足するとき,Zは最小になります.すなわち,このとき電流が最大に流れることになります.式(5)を満足するとき,これを回路の共振(resonance),とくに直列共振(series resonance)といいます.

 また,

が成立するようなときにはインピーダンスの虚数部,これをリアクタンス(reactance)といいますが,これが正になります.こういうときこの回路を誘導性(inductive)の回路と言い,反対に,

が成立するような周波数では,回路インピーダンスの虚数部が負となります.こういうとき,この回路は容量性(capacitive)の回路であるといいます.

9.1.2.並列共振回路

 直列共振回路に対して上図(b)の回路を並列共振回路といいます.この回路は抵抗やインダクタンス,キャパシタンスのインピーダンス並列回路になっています.したがって,ここに流れる電流は,

   (eq. 6)

となります.ここで,

なるYを導入してこれをアドミッタンス(admittance)といいます.アドミッタンスとは,admit(受入れる,認める)からきた言葉で電流の流れやすさを示す物理量です.

   (eq. 7)

 式(7)において,

の虚数部を0とするような角周波数,

   (eq. 8)

なる関係が成立しますと,このときYは最小になります.アドミッタンスが最小ですから,この回路に流れる電流は最小になります.もし抵抗が無ければ,電流は流れなくなります.回路に電圧を印加しているのに電流が流れないというのは奇妙なことに思われるかも知れませんが,これは次のような事のために起こります.

 すなわち,インダクタンスに流れる電流は電源の電圧位相に対して90°遅れます.

他方,キャパシタンスに流れる電流はそれより電源電圧に比較して90°進みます.しかも式(7)のような関係がありますと,これら両者に流れる電流の振幅は同一です.それゆえ合成電流は打ち消し合ってしまいます.こうして回路には電源から電流が供給されず,したがって回路の両端の電圧は最大になります.

 こういう特性を使ったものの一例が,通信機の同調回路です.通信機では,送信してくる信号の周波数を選んで信号を受信します.これを選局(tuning)といいます.図のように,アンテナから流れてくる電流の中,L又はC(多くはCでバリコンと俗称されている)を変化させて,式(7)を満たすように所望の周波数を選ぶことが選局であり,こういう回路をチューナ(tuner)といいます.しかし,現在ではバリコンは殆ど使われなくなりました.代わって,ダイオードの接合容量を使って,それに印加した逆電圧で容量を可変するタイプのキャパシタが多く使われています.そういうものをバリキャップと呼んだりします.


9.2.交流回路網……キルヒホッフの方程式

 図のような回路を想定してみましょう.このとき,回路電流は,一つの枝に一つの電流として好きなように決めます.ついで,与えられた回路の中から閉回路を構成する回路を取り出します.ここでは,回路Tと回路Uとしました.

 

2 一般的な交流回路のモデル

 

 回路の接続点Aにおいて眺めてみますと,ここには電流I1が流れ込み,電流I2とI3とがここから流れ出して行きます.電流の連続則から,この点に澱む電流はないのですから,A点で,

=I+I   (eq. 9)

なる関係が成立します.

 このように,回路網の接合点において,電流の総和が0であるとする法則を,キルヒホッフの第一法則といいます.

 同じ関係は,接続点Bにおいても成立しています.ここでは,電流はI3とI2が流れ込んできて,他方I1が流れ出しています.ゆえに,それらの関係は式(6)と全く同じです.このように,回路にk個の接合点がある場合,ここでのキルヒホッフの第一法則は,

「k−1」個

だけ独立な方程式が得られます.

 次に,回路Tと回路Uについて見てみましょう.回路Tは下の図(a)のようになっており,回路Uは同様に(b)のようです.

 

3 キルヒホッフの第二法則

 

そこで,図(a)にしたがって,次のように回路方程式を書き表します.

   (eq. 10)

また,同図(b)にしたがって,

   (eq. 11)

となります.

 こうして,書いた方程式(6),(7),(8)をキルヒホッフの第二法則といいます.

 ところで,こういう回路方程式は,接合点の数がk個,接合点と接合点を結ぶ枝の数をl個とするとき,

「l−k+1」個

だけあります.といいますのは,枝の数は未知数の数です.未知数がl個あるのですから,第一法則からk−1個の方程式が得られるなら,残りはl−(k−1)=l−k+1となるからに他なりません.そこで,つぎにホイートストンブリッジを例にして回路を解いてみましょう.

9.2.1.ホイートストンブリッジ

 図のような回路をホイートストーンブリッジといいます.この回路は,回路定数の測定によく用いられる計測用の重要な回路です.

 たとえば,Z3を未知のインピーダンスとし,残りの全てが既知のインピーダンスであるとします.既知のインピーダンスというのは,これらが未知の量を決めるのですから,公正で正確なものでなければなりません.こういうものを副原器といいますが,世界的な機関と連携した国など公の機関がこの管理について検査と承認を与えたものでなければなりません.世界では仏国のパリにあるISO(International Standardization Organization)が当っています.我が国では,この種の管理機関は通産省(電子技術総合研究所の標準器室)が監督管理しています.

 さて,この回路では接点は点A,B,C,Dの4箇所です.したがって,ここから電流連続則として採用される独立な方程式の数は3つになります.

   (eq. 12

4 ホイートストンブリッジ

 

 ところで,未知数は6つですから方程式としては残り3つが必要です.キルヒホッフの第2法則を適用するための閉回路としては任意に選ぶことができますが,ここでは一例として回路T,U及びVを選んで,これにキルヒホッフの第2法則を適用しましょう.

まず回路Tから,

   (eq. 13)

回路Uから,

   (eq. 14)

回路Wから,

   (eq. 15)

となります.以上の6つの連立方程式から電流を求めることができます.

 ところで,いまIG=0となるように定めますと,

1=I2   (15)

4=I3   (16)

0=I+I   (17)

です.また,式(12)〜(14)から,

11=Z44   (18)

22=Z33   (19)

よって,

 式(20)を(21)に代入して,

   (eq. 16)

上式が成立するためには,

24=Z13   (eq. 17)

なる関係が成立しなければなりません.Z,ZおよびZなどが既知の量である場合には,未知量Zはこの関係から求まります.すなわち,検流計が0になるようにZ,ZまたはZを調整すれば未知のZの値が決定できることになります.ここで,検流計を0にするということは重要なことです.一般に指示計器(ここでは検流計)は,可動部を持ちますからその指示は必ずしも正確ではありません.そこで,指示値は信用しないが,電流感度だけは信用できるような計器を使って正確な測定ができるのです.このような計測システムをゼロ点法といいます.


9.3.電力

記号法で書いた電圧および電流を,

のように仮定しましょう.ただしここで電力Wは電圧と電流の積でした.そこで,

W=VIexp(jθ)   (eq. 18)

が電力です.そして,この式は,

   (eq. 19)

のように変形できます.こう書いたとき,Wrを有効電力(effective power),Wi無効電力(reactive power)といいます.

 有効電力は,実際にエネルギーとして使われる電力なのですが,無効電力は負荷に消費されることなく再び発電所に戻ってくる電力です.その原因は,インピーダンスにあり,電圧と電流の間に一定の位相が存在するためです.

そこで,Wが実軸と虚軸の間に挟む角度(ここではθですが)のcosをとって,

cosθ

のことを力率(power factor)といいます.

 力率は,電流と電圧の角度差ですから,この角度が大きくなると無効電力を多く扱うことになります.無効電力であっても,それを電流によって運ばなければなりません.そういう電流を無効電流といいますが,無効電流も送電線の抵抗による発熱が生じます.それゆえ,送電損失は無効電流によっても生じますから,従って,力率を少なくすることが望ましい配電システムということになります.

 通常,力率を悪化させる要因は誘導性の負荷です.世の中の電力負荷としてモーターや電源トランスのような巻線を多用したものが多い所為です.巻線を使う装置は,インダクタンスを有しますから,これが優勢に作用して誘導性を呈します.誘導性を中和して力率を改善するためには容量性の負荷を並列に接続すれば改善されます.そこで,一定量以上の容量の設備機器ではキャパシタを添付して力率を改善することが義務付けられています.こういうものを進相用コンデンサなどということがあります.

我が国の電力料金体系は,契約電流容量の増す毎に電力単価を高くするように定められています.したがって,無効電流まで契約してしまいますと,電力料金が割高になります.ゆえに,可能な限り力率を改善して,有効電流のみを契約電流とすることが経済的でもあり合理的でもあります.