
先にアンペールの法則について紹介しました.それによれば電流の周りに磁界が,右ネジの法則にしたがって発生しました.
ところで,ニュートン力学の第3法則に,物体に力を作用すると,それと向きの反対の力が生ずるとされています.これは,いわゆる作用反作用の法則に他なりません.これをアンペールの法則に単純に応用致しますと,電流が流れると磁界ができる,ゆえに磁界中に導体を置くとそこに電流が流れることによって,作用反作用の法則を満足するというようなことになるのではないかと考えられます.事実,19世紀前半,アンペールの法則が発見された直後からヨーロッパの「科学者」たちはこの現象を血眼になって追究しました.もしこのようなことがあると,磁石を置いておくだけで電流が無尽蔵に得られることになります.しかし,そういう都合の良いことは起こりませんでした.

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マイケル・ファラデーもこういう都合の良いことを研究する学者の一人でした.不眠不休の実験の後,最後にファラデーが到達した結論は,磁石をただ置いただけでは電流を作り出すこと,すなわち発電は起こらず,磁石を激しく動かすという「努力」をしなければならないということでした.何事も果報は寝て待っていては得られないという当たり前の結論です.

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ファラデーによれば,閉じた電気回路(もっと単純に言えば,導体コイルです)と鎖交する磁束が変化すると電気回路中に電流が流れる.電流の向きはそれによって生ずるであろう磁界が,最初に電気回路に鎖交した磁束の時間的増減を打ち消すようになっている,ということでした.その様子を描いたのが上の図です.
ファラデーにしたがってこの現象を数式に表わしてみましょう.導体コイルに生ずる電流というのは,導体周囲に生ずる電界のことですから,これを起電力Ξ(electro-motive force)といい,
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とすることが出来ます.そして,これはコイルを貫通する磁束に比例するというのですから,コイルを貫通する磁束として,
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に比例します.しかも,時間的変化を打ち消すように作用するというのですから,

となることでしょう.よって,ファラデーの法則は,

と表わされることになります.
上式右辺にストークスの定理を適用しますと,

となりますから,結局次式を得ます.

これが微分形で書いたファラデーの法則です.
ファラデーの法則は,摩擦電気や電池以外に電気を作る原理でありました.しかも,最もダイナミックで,有効な発電の方法を与える原理となりました.
いま下の図のように磁束密度Bの磁界中に一本のコイルを持ってきましょう.そしてこれを時刻t=0からt=Δtの時間にわたって等速度

図
時刻t=0においてコイルを貫通する磁束と,時刻t=Δtとの間の貫通磁束の差は,これを,ΔΨとしますと,もしこれが増加していたとすれば,それは二つのコイルが描く軌跡の中でその側壁から入り込んだ磁束と看做すことが出来ます.磁束密度Bがこの空間中で一定であるとすれば,この側壁から入り込んだと思われる磁束の量は,図の帯状の部分から入り込んだ量
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をコイル一周にわたって積分した量として求めることが出来ます.すなわち,
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となります.
ΔΨは,増加と仮定しておきましたから,ファラデーの法則より起電力Ξは,

となります.
上の演算途中で,ベクトル算法の公式
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を使いました.
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から,
E
なる関係がえられます.
この式は,発電の原理を直接的に示す式です.電界,磁界,速度の関係が図のようになっていて,これを右手の法則といいます.

図
この式の解釈を述べておきましょう.この法則は,磁界という物理的状態は,この中に静かに静止している人からみた物理的状態であって,この中を速度・で走行している人が見たときには,ここは磁界ではなく電界に見えてくるということを表わしているのです.つまり,磁界中を導体が走行していますと,この導体は磁界ではなく電界を見ますので,導体の両端の間に電圧が生じ,それゆえここに電流が流れるのです.
ところで,式(2)は,先に学んだローレンツ力によく似ています.どうしてでしょうか.ローレンツ力というのは,磁界中を電荷が運動すると磁界から受ける力のことでした.

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導体というのは,見方によって電荷の集合体と看做すことができます.ゆえに,これを磁界中で運動させますと左手の法則による力を受けます.そのため,図のように正の電荷は下向きの力を受け,負の電荷は上向きの力を受けて,分離します.すると,分離した電荷の間にはクーロン力が働いて,これを中和しようとしますが,ローレンツ力とクーロン力の平衡した状態で現象はバランスします.よって,一定の電荷分離の状態が生じ,ゆえに導体両端に負荷を接続すれば電流が図のような向きに流れます.これが発電です.
ファラデーの法則によれば,閉じた回路に鎖交する磁束が時間的に変化すればその変化を打ち消すような起電力が生ずるのでした.特別な電気回路を除き殆どのものが時間的に変化する電流を流しています.それゆえ,電気回路の中では常にこの電磁誘導現象が働いていると考えて間違いなさそうです.
いま,一本の電気回路があり,そこに時間的に変動する電流I(t)が流れているとします.この電流はアンペールの法則によって磁界を作ります.その磁界の一部はこの回路自身に鎖交します.その鎖交する量は回路電流I(t)に比例し,かつ回路の幾何学的形状に関係するであろうと思われます.幾何学的形状は区々ですから,それを一括してΨ(t)としますと,
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と置くことが出来ます.
すると,この回路には,ファラデーの電磁誘導法則から,

のような起電力をこの回路に作り出します.この起電力は,式(4)から分るように電流Iの時間微分と逆符号になっています.すなわち,ある向きの電流が増える時間帯には逆起電力はそれと逆向きに生じ,電流が減少しようとする時間帯では,電流を増やそうとする作用をします.つまり,どちらにせよ回路中の電流は増えるも減るもしにくいようにリアクションを受けています.このように回路に流れる電流自身によってその電流そのものが影響を受けるような現象を自己誘導(self induction)といい,形状に依存する定数Lをもって,これを自己インダクタンス(self inductance)といいます.

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また,上の図のように複数の回路があるとき,一つの回路に流れる電流が時間的に変動することによってそれが発生する磁束が他の回路と鎖交するときにその回路中に生ずる誘導現象を相互誘導といいます.そこでいまi番目の回路の回路電流によって生ずる磁束の中j番目と鎖交する磁束を求めますと,それはi番目の回路の電流I
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のように形式的に置くことが出来ます.
この磁束が時間的に変動することによってj番目の回路に生ずる逆起電力は,

のようになります.こうしたときMjiを回路iと回路jの間の相互インダクタンス(mutual inductance)といいます.
長さl,巻数N,断面積Sのコイルがあるとして,そのインダクタンスを求めてみましょう.こういう有限の長さのコイルは前に求めたソレノイドとは違います.有限であるために端の方で磁界が乱れて一様ではなくなるからに他なりません.しかし,これを厳密に求めるのは極めて大変ですから,近似的にソレノイド磁界を使って概算してみましょう.
ソレノイド内部の磁界は,
H=nI
でした.ここに,nは単位長さ当りの巻数です.したがって,
n=N/l
です.ゆえに,ソレノイド内部の磁束密度Bおよび磁束Φは,

となります.
コイルとの鎖交磁束Ψは,磁束にコイルの巻数を掛けたものです.

相互インダクタンスをつかった装置の典型的な例は変圧器です.変圧器は簡単な構造で電圧を自由自在に変えられる便利さをもって広く実用に供されています.
いま図のように,全磁路長lの鉄心にN

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それぞれのコイルを一次巻線,二次巻線といいます.これらを巻きつける構造物を鉄心といい,実際鉄(現実には硅素鋼板)などで出来ています.鉄心は後で見るように磁束を通す能力の高いものですから磁束の洩れが殆どなく,それゆえ,ここでのコイル中の磁束は無限長ソレノイドの計算が十分な精度で成立します.
したがって,一次巻線によって生ずる磁界は上の計算結果より,

とすることができます.ここにμ
この磁束が全て二次巻線と鎖交するとします.すると,二次巻線との鎖交磁束は,

となります.
それゆえ,相互インピーダンスは,

のように与えられます.
また,このとき一次,二次の巻線の自己インピーダンスは,それぞれ,

となります.ゆえに,式(8),(9)の間には,
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のような関係があります.しかし,実際には磁束の漏洩がありますので,この式は,
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のように修正されるべきです.
ところで,一次側に印加した電圧をV1[V]としますと,二次側に発生する電圧V2は, Ψ21を時間微分して得られます.すなわち,

です.他方,一次回路の電圧v

ゆえに,

となります.このように変圧器は単純に入力側と出力側の巻線の巻き回数によって電圧を自由に変えることが出来ます.
いままでに分った電磁方程式をここに集めてみますと,次のようになります.
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式(3)は,今までに直接には説明してありませんでしたが,オームの法則の微分形ですから,高校で勉強しているはずです.
式(2)では,導体を貫通する磁束が時間的変化しますと,その磁束を取巻く回転電界が生ずることを意味しました.この電界は導体中に生じているのですから,そこには式(3)による電流が発生し,その電流は磁束を中心に渦状の電流です.こういう電流のことを渦電流(eddy current)といいます.
いま,山梨県で話題の磁気浮上型のリニアモータカーは,この渦電流を軌道上に誘起して,その電流と磁束の反発力(必ず反発力になる)を利用して浮上するものです.
さて,式(13)の両辺に▽×を演算して,

となります.ベクトル算法の公式を使い,且つ▽

のようになります.
また同様に,式(14)の両辺に▽×を施しますと,

いま,▽・

なる方程式が得られます.
また,式(15)を(14)に代入して,

となりますの,結局,

を得ます.ただし,誘導の過程で▽・

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こうして,式(4)〜(6)は,全て同じ形式の微分方程式に帰着しました.そこで,式(6)を例にして微分方程式を解いてみましょう.そのために,モデルとなる座標系を図のように設定してみます.すなわち,半無限の媒質があって,その媒質定数は導電率がσ,透磁率がμです.

となります.ただし,ix(t)=ixexp(jωt)のように時間関係を仮定しています.
上式の微分方程式は簡単に解けて,

のように一般解が得られます.
ところで,虚数記号jとは,

ですから,


となります.すなわち,式(19)の一般解としては,

となります.しかるに,式(20)の一般解の中第一式はzの増加に伴って電流が増える形になっており,考えている媒質がz=∞にまで存在しますからそこでは電流密度は∞の大きさになってしまうことを意味しています.そういうことはあり得ませんので,この解は無意味な解であることを意味します.結局求める解は,上式第2式であって,

となります.
このように,導体中の高周波電流は表面で多く,導体の内部に行くにしたがって指数関数的に減少する電流が流れていることが分ります.表面の電流値に対してちょうど自然対数の底eの逆数になるzの値をδとして表皮の厚さ(skin depth)といいます.すなわち,

は,高周波の渦電流が導体表面のどの程度の深さにまで達して流れているかの目安を与える量になります.
ところで上述のように磁界や電界も同じ方程式を満足していましたから,同様に導体表面に局在していることが分ります.こういう高周波効果のことを一括して高周波の表皮効果(skin effect)といいます.
このような表皮効果がありますから,高周波電流を流す導体が太くてもその抵抗を減ずることができません.したがって,導体表面の導電率を高くするために金や銀で鍍金をするとか,あるいは細い電流を多数束ねて導線として使うなどの工夫が必要です.