第3章 静電ポテンシャルと電位差

Electro-Static Potential & Potential Difference

キーワード:ポテンシャルポアッソンの方程式電圧


電位の導入

 「場」の概念を一応理解したところで,次に電位について考えていきましょう.「場」の概念と表裏をなす物理的量として「ポテンシャル」があります.

 ポテンシャルとは,元来,勢力とか力のことです.場がありますと,その場がどのような力を内在しているものかを表わす量がポテンシャルであると考えてよいでしょう.

 図 1 山上の危険な浮き石

 最も身近なポテンシャルとしては,重力場のポテンシャルがあります.山の頂上にある何の変哲もない石,そんな石なら麓にもいくらでもあるのですが,頂上の石と麓の石は同じように見えながら,物理的な力としては断然違います.事実,山頂附近の石は,これを転がしますと絶壁を掛け下って麓の民家を押し潰すことができます.しかし,麓にある同じような石にはこんな力はありません.つまり,山頂の石と麓の石とは同じ石でもポテンシャルエネルギーにおいて断然異なる値を持っているのです.だからこういう勢力は,石自身の持っている固有の力ではありません.石のおかれている場所,すなわち空間にその力が宿っているということになります.そういう意味で,私たちが住んでいる地球上は重力ポテンシャルの場であるということが分ります.

 山頂附近の石はこのように力を蓄えていますが,そのそもそもの源は,造山作用のあった地質時代に,地球のプレートの圧力によって山が作られ,その時にこの石に与えられたエネルギーであったと想像されます.そうでなければ,誰かが石に対して仕事をして,山頂附近に持上げたのかも知れません.つまり,何か別のエネルギーによって付与された仕事の結果としてこの石は高いポテンシャルエネルギーを保有していたのです.

 電荷がありますとその周囲の空間には電界が生じます.電界は場ですからポテンシャル概念を導入することができます.電界中に電荷を持ってきますとこの電荷はクーロン力を受けますから,電界のある空間もまたポテンシャル場であることが分ります.このような,電界に関わるポテンシャル場を電位場(electric potential fieldと言います.そして,静電場に付随するポテンシャルは単純で,スカラーのポテンシャルです.

 電界中で電界からの力に抗して電荷を動かすためには電荷に対して仕事をしなければなりません.いま,簡単の為,この電荷を1Cなる大きさの単位電荷としましょう.すると,この電荷を電界中の点AからBまで径路Cに沿って動かすことに要する仕事量Wは,

    (eq. 1)

のように表わされます.ここに負号は,電界に逆らってなす仕事を表現しています.

 さて,この仕事は点Aから点Bに至る径路に依存しません.ただ,A点とB点の位置にのみ関係します.だから,下の図のようにAからBに至るのに径路Γを行くか,Γ’を経るかは無関係だという訳です.

 すなわち,

   (eq. 2)

となります.

 こういうことであれば,結局単位の電荷を持って静電界中を動き回って,一周しますと,結局仕事は全くしないことになります.

 すなわち,

   (eq. 3)

となります.

 図2 電界中の電荷を運ぶ仕事

 ところで,上の関係式は以前紹介しておきましたストークスの定理にしたがって,

   (eq. 4)

のようになります.それゆえ,

▽×E=0   (eq. 5)

となります.こういうベクトルの場のことを「渦無しの場(irrotational field)」といいます.渦の無いのが静電界の特徴です.


スカラーポテンシャル

 こういう性格の場のことをスカラーポテンシャル場ともいうことがあります.重力場はその典型的なものでしたが,静電場はこの限りにおいて重力場とよく似た性格を持っていると云うことができます.

 ところでベクトル数学の理論から,

▽×▽φ≡0   (eq. 6)

なる関係があります.証明は簡単ですから,つぎに掲げておきましょう.

【証明】

Q.E.D.

 ゆえに,静電界について,

E=−▽φ   (eq. 7)

と置くことができます.こうしたときφのことをスカラーポテンシャルまたは電位関数などといいます.

  図 3 静電ポテンシャルの定義

(7)を解きますと,

   (eq. 8)

いま,無限の遠方をポテンシャルの基準にとってそこをポテンシャル0の場所と仮定します.すると,点AとBのポテンシャルは,

よって,

   (eq. 9)

となり,この値を点Aと点Bの間の電位差または電圧と呼び,[V=volt]を単位として用います.[V]なる単位は,電池の発明者ボルタを記念して付けられた単位呼称に他なりません.

 ところで,先に電荷を含む空間中の電束に関しては,ガウスの法則があることを紹介しておきました.そこで,式()ガウスの法則に代入しますと,

ゆえに,ポテンシャル関数としては,

   (eq. 10)

なる方程式を満足します.この微分方程式をポアッソンの方程式(Poisson's equation)といいますが,この方程式の解析については後で学びます.


簡単な電荷形状の電位

球状電荷による電位

 半径aの球内に電荷が密集しているときの周囲の電界は先に第2章で求めておきました.それによれば,球の中心からの距離rがaより大きいところで,

でした.

 図4 球状電荷の作る静電界

 これを式(8)に代入致しますと,

   (eq. 11)

 ここで,いま下の図のように球状電荷の外側に球殻を設けてここの電位を基準にして球の電位を与えるとすれば,

のようになります.この式の構造を眺めてみますと,括弧内はモデルの幾何学的形状を表わし,4πεは球形形状と媒質の性質を表わすものとなっていて,それに電荷Qがかかっているというものです.

 

 図 5  球殻の中のポテンシャル

線状電荷による周囲の電位

 図 6 線状電荷の作る静電界

 上の図のように太さδの無限長線路があって,これに線電荷κ[C/m]があるときの周囲の電界は,

でした.そこで線路の中心軸からrの距離の電位は,

であり,図のように同軸状の半径aの外筒がある場合には,

   (eq. 12)

のように電位差が表わされます.

 ここでも両電極間の電位差は電荷κと2πεは円形の幾何学的形状に関係する量とで表わされていることが分ります.

平板状電荷による周囲の電位

 このときの電界は,平板上の電荷の面密度をσとするときは,

でした.よって電位は,


 図7 平行平板電極間の静電界

ゆえに,上の図のように間隔dの無限平板が対向して設置されているときには,両電極間の電位差は,

   (eq. 13)

のように得られます.ここでは,dが幾何学的形状を,εが媒質の性格を,σが電荷を表わしていることに着目しておきましょう.


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