No.23 音曲風呂
風呂の中では声が良く出る。江戸には、これに目を付けて風呂の中で都々逸などを教える「音曲風呂」というものがあった。これには、一回りが七日、二回りが十四日、三回りの三七=二十一日あれば上手になるというのが宣伝文句であった。建具屋の半ちゃんは今夜がその三回り目。
半公: 「うん大分声が出るようになってきたぞ。だが、こう皆でワーワー唄っていちゃ自分の声がどの位出ているのか分からねえ。一つ閑な所へ行って声を出してみるか。」
♪ ハァー、おたーがいにー、離れちゃいやだよ、行かずにおくれ・・・♫
半公: 「うん、なかなかいいぞ!」
男 : 「こりゃ、なんだお前は? こんな所で都々逸なんぞ唄って、怪しい奴だ!!」
半公: 「いえいえ、あっしは横丁の建具屋の半公ってもんで、決して怪しいもんじゃありません。音曲風呂に三回り入って大分声が出るようになったんで、ここで試しているんでさぁ。」
男 : 「なんだ、三回りもやって、その程度か? 拙者などもっと出るぞ!」
半公: 「そうですかい、それじゃあっしに唄って聞かせてみておくんなせぃ。」
男 : 「火のよーうーじーん、しゃっしゃりませー。どうだぁ? 良い声だろう。」
半公: 「本当だ!あんた何の商売ですねぇ?」
男 : 「拙者か? 拙者はなあ、当家の夜回りだ!」
半公: 「道理でうまいわけだ。アッシより一回り余分だ ぁ」
男: 「???」