芭蕉宛北枝書簡

(元禄7年8月1日)

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かたまらぬ角おもげなり夏の鹿

ふむ花や見上て登る山ざくら

手にうつるこれもはかなや蝶のはく

われ鐘のひヾきもあつし夏の月

       しら山にて

うす霧の雨くろみたる行衛かな

誠御はづかしく、おそれみおそれみつたなき事共を懸御目申候。扨々ことし御上京ノ事、夢ばかり承申候はゞ、此秋参宮仕奉尊慮候はゞ、いか斗のよろこびたるべき事と、くりかへして不幸をなげき申候。何とそ何とぞ此上には御入湯ノ事おぼしめし御立候へかしと奉待候。何かと跡言なる仕合、御手紙に申上がたく奉存候。猶以万端跡より可申上候。恐惶頓首

      八月朔日                北枝


 金沢の北枝が伊賀滞在中の芭蕉に宛てた書簡。