芭蕉宛越人書簡

(貞亨4年11月22日)

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彌御無為に御坐被成候哉*。寒気之節御心元なく奉存候。扨は爰元へもちとちと御こし被遊(可)被下候*。連中も*毎度私をせめ申候。私は大かた御越被遊候節もかねて存申候得者*、舟泉・重五・昌碧など申候人々、又其元へ可参と申候へ共、御旅舎之御造作に御坐候間、ひらに留置申候*。少早ク御越被遊可下候。 以上
    十一月廿二日                              越人

 芭蕉□先生 脚下


『笈の小文』の旅の途中熱田桐葉亭に滞在中の芭蕉宛に早く来てほしいという越人の催促状である。芭蕉の人気が実に高かったことがうかがえる。


彌御無為に御坐被成候哉:<いよいよごぶいにござなされそうろうや>と読む。お元気のことと思います、の意。
扨は爰元へもちとちと御こし被遊(可)被下候:<さてはここもとへもちとちとおこしあそばされくださるべくそうろう>と読む。さて、私どものところにもぜひ御越し下さい、の意。
連中も:私の俳諧仲間。
私は大かた御越被遊候節もかねて存申候得者:<わたしはおおかたおこしあそばされそうろうせつもかねてぞんじもうしそうらえば>。私は知っているからいいのですが,知らない泉舟や重五・昌碧などは,そちらに伺うべきだなどといって困ります。