世の人相逢ふ時、暫くも黙止する事なし*。必ず言葉あり。その事を聞くに、多くは無益の談なり。世間の浮説、人の是非*、自他のために、失多く、得少し。
これを語る時、互ひの心に、無益の事なりといふ事を知らず。
世の人相逢ふ時、暫くも黙止する事なし:<よのひとあいあうとき、しばらくももだすることなし>と読む。世人は、道端なので知人と遭ったときに、必ず何か喋るものだ。こういうのをコミュニケーションというのだから当然だが・・ところが、・・
世間の浮説、人の是非:「浮説」はうわさ話など、「人の是非」は要するに悪口。
何時の時代も人は同じことをやってきたのだということ。
よのひとあいあうとき、しばらくももだすることなし。かならずことばあり。そのことをきくに、おおくはむやくのだんなり。せけんのふせつ、ひとのぜひ、じたのために、 しつおおく、とくすくなし。
これをかたるとき、たがいのこころに、むえきのことなりといふことをしらず。