坊の傍に、大きなる榎の木のありければ、人、「榎木僧正」とぞ言ひける。この名然るべからずとて*、かの木を伐られにけり。その根のありければ、「きりくひの僧正*」と言ひけり。いよいよ腹立ちて、きりくひを掘り捨てたりければ、その跡大きなる堀にてありければ、「堀池僧正*」とぞ言ひける。
堀池僧正:<ほりけのそうじょう>。読み方に注意。
それにしても、すさまじいばかりの庶民のしつっこさ。これも『徒然草』集中、もっとも人口に膾炙した一段である。
きんよのにいのせうとに、りょうがくそうじょうときこえしは、きわめてはらあしきひとなりけり。
ぼうのかたわらに、おおきなるえのきのきのありければ、ひと、「えのきのそうじょう」とぞいいける。このなしかるべからずとて、かのきをきられにけり。そのねのありければ、「きりくいのそうじょう」といいけり。いよいよはらだちて、きりくいをほりすてたりければ、そのあとおおきなるほりにてありければ、「ほりけのそうじょう」とぞいいける。