武蔵国金沢といふ浦にありしを*、所の者は、「へなだりと申し侍る」とぞ言ひし。
甲香:<かいこう>と読む。貝、アカニシのふた。粉末にして練り香の材料とする。へなたり。こうこう。
口のほどの細長にさし出でたる貝の蓋なり:アカニシ貝はほら貝を小さくし、その口の辺りが細長く、その突き出した部分にある蓋を粉末にして、香料と共に練り香にする。
武蔵野国金沢といふ浦にありしを:いまの横浜市金沢区の海岸で採れる貝。兼好は、鎌倉を訪れているので、実際に見聞したのであろう。
アカニシ貝(淡輪漁業協同組合提供)
ところ変われば言葉も違うということを面白く感じたのであろう。
かいこうは、ほらがいのようなるが、ちいさくて、くちのほどのほそながにさしいでたるかいのふたなり。
むさしのくにかねさわといううらにありしを、ところのものは、「へなだりともうしはんべる」とぞいいし。