いにしへのひじりの御代の政をも忘れ*、民の愁、国のそこなはるゝをも知らず、万にきよらを尽していみじと思ひ*、所せきさましたる人こそ*、うたて、思ふところなく見ゆれ*。
「衣冠より馬・車にいたるまで、あるにしたがひて用ゐよ。美麗を求むる事なかれ」とぞ、九条殿の遺誡にも侍る*。順徳院*の、禁中の事ども書かせ給へるにも、「おほやけの奉り物は、おろそかなるをもッてよしとす*」とこそ侍れ。
華美に対する戒めを述べたもの。例示として、藤原師輔の遺誡と順徳天皇の書物を引用。誰か非難したい対象があったのであろうが、それは不明。なお、「万にきよらを尽していみじと思ひ、所せきさましたる」知人・同僚・御用学者・藪医者に筆者は事欠かない。