審査結果の要旨    


氏 名(本籍)
伊  藤   洋(山梨県)
学位の種類
工 学 博 士
学位記番号
工 博第 102 号
学位授与年月日
昭和42年3月24日
学位授与の条件
学位規則第5条第1項該当
研究科専門課程
東北大学大学院工学研究科
(博士課程)電気及通信工学専攻
学位論文題目
異方性プラズマ中のアンテナに関する
研究
論文審査委員
(主査)
教 授 虫明康人  教 授 八田吉典
教 授 内田英成  教 授 上領香三
助教授 安達三郎

 地球上層部にある電離層は,自然にできたプラズマであり,これに高周波電磁界をかけた場合の等価誘電率は異方性を示すことが知られている。このような媒質中にアンテナを置いた場合の特性を明らかにすることは,宇宙開発に関連して,学術的にも実用的にも重要となって来た。著者はこの点に着目し,異方性プラズマ中におかれたアンテナの給電特性と近傍電磁界について理論的解析を行なうと共に,スペースチェンバ内に大容積異方性プラズマを生成して,電離層と等価な媒質を地上に実現し,その中に置かれたアンテナの特性について実験的研究を行った。
 本論文は,これらの研究によって得られた多くの新しい結果と,それらに対する検討をまとめたものであって全文9章より成る。
 第1章は緒論であって,第2章と第3章には,異方性プラズマ中に単なる素電流とイオンシースのある素電流を置いた場合に生ずる近傍電磁界の理論式が誘導してある。従来からこの種の媒質中におかれた素電流による遠方電磁界については多くの研究があるが,近傍電磁界を求めたものはほとんどないので,この点において本研究の意義がある。第4章では同様な媒質中でイオンシースに囲まれた無限長導線の近傍電磁界を求め,その結果を第5章において半波長アンテナの入力インピーダンスと放射界の計算に適用している。従来インピーダンスの計算には,異方性プラズマ中での導線上の波長が仮定されていたが,著者は理論的根拠のある計算によって新しい数値を得,それを図表にして示している。
 以上の理論を確かめる目的で行なわれた実験的研究が第6章以降に述べられている。まず第6章には,東北大学電気通信研究所に設置されているわが国最大のスペースチェンバ内に著者の設計したプラズマ源によって生成された大容積プラズマの特性の実測値が示されており,第7章には,その中でアンテナの測定を行なうために著者が試作した,電波吸収壁とプラズマ磁化用大型コイルの構造ならびにその特性が示され,さらに,その動作状態で生成される磁化プラグマの特性と、放電電流,磁化電流等との関係が示されている。このようにして得られた磁化プラグマ中にユニポー・アンテナを入れて,数百MHz帯で測定したインピーダンス特性の実測結果とその検討が第8章に述べられている。このような測定は著者によって始めて行なわれたものであり,実測値は著者の理論とかなりよく一致している。ここで特筆すべきことは,電子密度と直流磁界の強さによって定まるプラズマ共振点で,アンテナのインピーダンスに特殊な共振現像のあることが著者によって始めて指摘されたことである。なお,第9章は結論である。
 以上のように,著者は異方性プラズマ中におかれたアンテナについて理論と実験の両面から独創的研究を行ない,注目すべき多くの新しい結果を得た。本研究は電磁波工学上寄与するところが少なくない。
よって,本論文は工学博士の学位論文として合格と認める。