おほかた、世をのがれ、身を捨てしより、恨みもなく、恐れもなし*。命は天運にまかせて、惜まず、いとはず。身を浮雲になずらへて、頼まず、まだしとせず*。一期の楽しみは、うたたねの枕の上にきはまり*、生涯の望みは、をりをりの美景に残れり*。
このようにして、遁世し、出家してからというもの、他人への恨みも消え、生きていくことの恐れも無くなった。命は天にまかせ、それを愛しむことも無いかわりに、生きていることを嫌悪する心も失せた。身は浮雲のように思うことにして、期待せず、不足とも思わない。一生の楽しみは、畢竟、昼寝のようなものに過ぎず、さればこそ望むものと言ったら、日々に美しい景色を眺めることだけとなった。