芭蕉db
(貞亨3年春 43歳)
ある人の隠れ家を訪ねはべるに、あるじは寺に詣でけるよしにて、年老いたる男ひとり、庵を守りゐける。垣穂*に梅さかりなりければ、「これなむあるじ顔なり」*と言ひけるを、かの男、「よその垣穂にてさうらふ」と言ふを聞きて、
(るすにきて うめさえよその かきほかな)
なんとなく徒然草の『神無月の頃』を連想させる語り口のユーモラスな一文。
うっかり留守とは知らないでやってきたが、満開の垣根の梅を見たら、それはこの家の主人の俤を写しているようで懐かしくさえなったのに、何と聞いてみればこの梅も他家のものだそうで…