芭蕉db

高野詣

( 貞亨5年3月ごろ:45歳)

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 高野のおくにのぼれバ、霊場さかんにして法の燈消る時なく、坊舎地をしめて仏閣甍をならべ、一印頓成の春の花は、寂莫の霞の空に匂ほいておぼえ、猿の声、鳥の啼にも腸を破るばかりにて、御庿を心しづかにをがみ、骨堂のあたりに彳て、倩おもふやうあり。此処はおほく人のかたミの集れるところにして、わが祖先の鬢髪をはじめ、したしきなつかしきかぎりの白骨も、此内にこそおもひこめつれと、袂もせきあへず、そヾろにこぼるゝ涙をとヾめて、
 

父母のしきりに恋し雉の声

( ちちははの しきりにこいし きじのこえ)


笈の小文』 の詳細。