俳諧書留

鶴岡・酒田


   六月十五日、寺嶋彦助亭にて

凉しさや海に入たる最上川   翁

月をゆりなす浪のうき見る   寺嶋詮道

黒かもの飛行庵の窓明て    不玉

麓は雨にならん雲きれ    長崎一左衞門定連

かはとぢの折敷作りて市を待  ソラ

影に任する霄の油火     かゞや藤衞門任曉

不機嫌の心に重き戀衣    八幡源衞門扇風

    末略ス

  
  出羽酒田、伊東玄順亭にて

温海山や吹浦かけて夕凉     翁

みるかる磯にたゝむ帆莚    不玉

月出は關やをからん酒持て   曾良

土もの竈の煙る秋風       翁

しるしして堀にやりたる色柏   玉

あられの玉を振ふ蓑の毛 □

鳥屋籠る鵜飼の宿に冬の来て   翁

火を焼かげに白髪たれつゝ    玉

海道は道もなきまで切狹め    良

松かさ送る武隈の土産      翁

草枕おかしき戀もしならひて   玉

ちまたの神に申かねごと

御供して當なき吾もしのぶらん  翁

此世のすゑをみよしのに入    玉

あさ勤妻帯寺のかねの聲

けふも命と嶋の乞食       翁

憔たる花しちるなと茱萸折て   玉

おぼろの鳩の寝所の月

物いへば木魄にひゞく春の風   玉

姿は瀧に消る山姫        翁

剛力がけつまづきたる笹づたひ

棺を納るつかのあら芝      玉

初霜はよしなき岩を粧らん    翁

ゑびすの衣を縫々ぞ泣

明日しめん雁を俵に生置て    玉

月さへすごき陣中の市      翁

御輿は眞葛の奥に隠しいれ

小袖袴を送る戒の師       玉

吾顔の母に似たるもゆかしくて  翁

貧にはめらぬ家はうれども

奈良の京持傳へたる古今集    玉

花に符を切坊の酒蔵       翁

鶯の巣を立初る羽づかひ

蠶種うごきて箒手に取       玉

錦木を作りて古き戀を見ん    翁

ことなる色をこのむ宮達     良