(抜粋)
夫三界は只心ひとつなり。心、若やすからずは象馬七珍もよしなく、宮殿楼閣も望みなし。今さびしきすまひ一間のいほりみづからこれを愛す。おのづから都に出でて身の乞となれる事を恥づといへども、帰りてこゝに居る時は他の俗塵に馳する事をあはれむ。若、人このいへる事を疑はば、魚と鳥とのありさまを見よ。魚は水に飽かず、魚にあらざればその心を知らず。鳥は林をねがふ。鳥にあらざれば其心を知らず。閑居の気味も又おなじ。住まずして誰かさとらむ。